Drivin' with The Devil

主に自作小説・ロック論・マンガ論などを”狭く深く”書いてます。 どうぞ気軽に楽しんでいってください。。。!! 

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「なぁ、ミウ…」
「ん?」
「ホントに旅行ここで良かったのかな?」
「うん、もちろん!ジョウジが行きたい所へ行くって最初から決めてるって言ったじゃない。」

 

 

「でもさ。」
「でも、何?」
「せっかくミウを連れて来たのがこんなホラーっぽいツアーで。」
「気にしないで。びっくりしなかったと言えば嘘になるけど。」
「うん?」
「ジョウジが今まで見せたことのない顔を私の前に見せてくれて嬉しいんだ!」
「ミウ…」
「だからジョウジもそんなこと思わずに思い切り旅を楽しもうよ!」
「ありがとう!」
 礼を言われたミウはジョウジに思い切り抱きついた。

 

 

「ワッ!おいおい、くすぐったいよ!」
 ジョウジの胸に顔を埋めたミウはそのまま頭をグリグリと振った。
 ミウが上機嫌の時にする仕草だ。
 ミウの美しい黒髪が動く度にジョウジの顎の辺りを撫ぜる。

「ジョウジ、大好き!」
 顔を埋めたままのくぐもった声でミウが愛情の言葉を口にする。
「ミウ!」

 

 二人はツアーの宿泊宿であるシティホテルの一室にチェックインした直後だった。
 ”魔女伝説探訪ツアー”の目的地は東京から車で高速道路を使い約三時間程北へ走った某県の山間部に位置していた。
 ツアーとはいえども国内であるし、あまり人気のあるものではなかったと見受けられ、添乗員はおろか同行する客もいなかったのだ。
 従って旅行会社が用立ててくれたのは宿と周辺施設のチケットくらいだった。

 

 

 だが、二人きりの時間を過ごしたいと考えていたジョウジとミウにとってこの不人気ぶりはもっけの幸いであった。
 二人はレンタカーを借り、時間を忘れて気ままな移動を楽しんだ。
 車の運転は全てジョウジが行った。
 途中で休憩を入れたりなどして来たので肝心の観光は明日回しになっている。

 

 

「アァッ…」
 ミウも観光のことを忘れ、ジョウジの愛撫に身体を任せていた。
 甘美なまどろみの中でミウは確かな幸せを感じた。
 それはジョウジも同じだ。

 ”好事、魔多し”という言葉の意味を後で二人は、特にミウは嫌と言うほど思い知らされることを絶頂の中ではわかろうはずもなかった。

 

 

 翌日。
 ミウとジョウジは魔女伝説を裏付けるものといわれる”魔女の墓標”という石碑の前に来ていた。

 墓標は山間部にある小高い高原にあった。
 この高原、伝説のせいか緑が生い茂っている割にはどことなくうら寂しく、不気味な雰囲気を漂わせている。

 

 石碑は高さこそさほどでもないが、横幅がかなりあり、およそ三メートルはあろうかと思われた。
 石碑には“魔女伝説”についての解説が事細かに書かれているから、その幅であった。

 

 その内容はそれが実話であるとすれば非常にショッキングなものである。
 古来より“魔女”という存在というか概念のない日本において何故このような言い伝えが残ったのだろうか?

 

 そこに書いてある文面を二人は食い入るように読み始めた。
 すると、そこ書いてあったことは所謂西洋的概念による悪魔狩りや異教徒狩りの中で発生したものでもなければ、やはり西洋的物語の中に出てくるステロタイプなモンスターとしての魔女ではなかったのだ。

 

 

【ここに眠る魔女は、人間の進化の過程において生まれた突然変異的存在か、もしくは人間ではない化物であろう。太平の世が続いた江戸時代中期に彼女はこの地で生を受けた。いや、出現した。】

 

 

【とある石高三百石の武家の長女として生まれた卯美姫(うみひめ)は際立った美貌の持ち主として城下の下々にまで知られていた。性格も穏やかで、優しく、慈悲深くどのような身分の者にも老若男女を問わず慕われていたのだった。】

 

 

【十四の歳を迎えた卯美姫は隣領の五百石武家の長男の許へ嫁いでいった。それを境に姫は変貌した。夫は姫より四つ年上で、彼女に輪をかけて優しく、それでいて武芸にも長けたまさに理想的な存在であったが、それに反比例するかの如く卯美姫は悪い方向へ転がっていった。】

 

 

【まず何よりも顔つきが変わった。優しさの象徴であった大きく丸い瞳が、今は明らかに険が現れ、目つきもきつくなった。人々を癒していた視線が蛇のように睨みつけ、人を黙らせ、萎縮させるものになってしまった。】

 

 

【卯美姫の変異はそればかりではなかった。あろうことか彼女は獣の肉を食べるようになったのだ。それも当時食用とはされていなかった牛や豚の肉を生食でだ。魚も生きたまま食べていたという証言まであった。城内の者で姫が嬉々として生肉を喰らい、口を獣の血で汚している姿を見た者は枚挙にいとまがなかったほどである。】

 

 

「怖い!」
 ここまで一気に読み進めたミウは一旦石碑から目を離した。
 そしてジョウジに視線を移すと、
「…!」
 まるで他の事など意識に入ってこないかのように集中した状態で石碑の文章を読んでいた。
 その様子にミウは今まで彼に感じたことのない感覚を覚えた。
 それを忘れるかのようにミウは再び石碑の文章を読むことに没頭した。

 

 

【そのうちもっと奇妙な出来事が起こるようになった。卯美姫の夫が病床に伏したとのことで全く人前に姿を見せなくなったのだ。側近はもとより、彼の肉親である城主や母親である城主の妻でさえも会うことができなくなった。たった一人部屋に入ることができたのは卯美姫だけだ。姫以外立ち入り禁止のその部屋で何があったのかは想像の限りでしかないが、最終的にそこへ側近連中が無理矢理侵入した際に、彼らの視界に入ってきたものは布団に横たわっていた長男と思しき白骨体であった。】

 

 

【実に不思議であったのは、白骨の周りに一片の肉片も落ちていず、骨そのものにも全く肉らしきものがつていない、まるで刃物で綺麗に肉を削ぎ落としたような状態だったことである。白骨は綺麗な白色をしていた】

 

 

【また、息子の心配をあれだけしていたはずの城主も、どういうわけかそのことを口にしなくなり、そして或る日忽然と姿を消してしまった。城主の妻も同様であったが、彼女が失踪してしばらく経ってから、城を流れている川の下流で見るも無残な腐乱死体が発見され、どうやらそれが失踪した奥方であるらしいと城の御付医者が吐き気を堪えて診断したのだった。】

 

 

「ウプッ…」
 ミウは軽い吐き気を催した。
 それでもジョウジは相変わらず集中して文章を読んでいた。

 

【他にも城下にて男の子ばかりのかどわかしが発生したり、城の担い手である家臣の男、町の男たちといった連中が次々行方不明になった。その数は実に三十人余にも及ぶ有様だった。】

 

 

【さて、これらの異常で異様な事件は何故起こったのだろうか?突き詰めていくと卯美姫の変貌が原因、少なくとも遠因であることは想像に難くない。そう考えた城の者は捜査の手を彼女へと伸ばした。しかし、その頃には卯美姫は余人の手の届かない所へと行ってしまっていた。彼女は人間であって人間ではない禍々しい者へと化身してしまったのであった。】

 

 

『ブルルルル…』
 ジョウジが小刻みに身体を震わせていたことに残念ながらミウは気が付かなかった。

 

 

【卯美姫の顔つきに変化が生じたのと同時に、彼女の内面にも重大なる変化が起こっていたのだ。慈悲深さが影を潜め、替わって残虐性が表面に出てきた。彼女は部屋に迷い込んできたトンボや蝶といった虫を捕獲してはその体をバラバラにした。トンボの翅を毟って嬉しそうに微笑む姫を見て御付の女たちは戦慄した。またゴキカブリのような人が忌み嫌う害虫ですら平気で手掴みしてキーキー鳴いている様を確認しては楽しそうにその胴体を捥いだ。】

 

 

【果ては犬・猫といった愛すべき畜生をも捕らえてきては四肢を切り離したり、首を切り落とすなど、あとはここに記すのも憚られるほどの残虐な殺し方をして、まるで人に見せびらかすかのように外へ死骸を放り捨てた。】

 

 

 

【もはや心が人間ではなくなってしまった卯美姫は自分のことをいつしか“魔女”と呼ぶようになっていた。魔女はやがてその残虐行為の対象を人間へと求めるようになった。手始めに御付の茶坊主が餌食となった。立て続けに三人行方不明となったのだ。交替したものも全てだ。続いて家臣の者で二十歳代の若い男たちがやはり十人も行方不明になった。そして、ついに彼女がかつて愛した夫が亡き者となり、それを不審に思った城主夫妻も惨殺されたのであった。】

 

 

【魔女はどうやら男の肉を食料としていた節が見受けられる。それは発見された男たちの遺体が全て白骨化していたのに対して、唯一殺された奥方の遺体が腐乱していたことから導き出されたことだった。】

 

 

「ムゥ…」
 ミウは気分が悪くなっていくのを必死になって耐えた。

 


【やがて卯美姫、いや魔女は五百石の城下町だけでは飽き足らず、他の土地へ打って出たのだった。食欲も半端ではないが、権力志向も凄かったからだ。魔女は江戸を目指した。今では顔形もすっかり別人になってしまっていたが、それでもこの世に二人といない美貌を備えており、そこから発散される色香が男を惑わせる力を持っていた。すなわち“毒牙にかける”というものだ。】

 

 

【老若を問わずあらゆる身分の男が魔女の軍門に下り、彼女の食料として召された。男の肉を喰らうことで魔女の美しさはより磨きがかかっていった。その勢いで江戸城進出を企て、時の将軍徳川家治を殺し、喰らい、天下を奪わんと意気込んでいた。】

 

 

【しかしながら魔女の野望は意外なところで潰えた。かつて卯美姫だった時、夫に仕えていた忍びの者の手によって倒されたのだった。彼は主君の仇討ちを成就したのだ。このことでこの“魔女伝説”は大衆の知るところとなった。ただ、あれほど多くの男を惑わせてきた魔女が何故忍者の手に落ちたのかは今もって謎のままである…】

 

 

 

 

~つづく~

 

 

*この物語はフィクションです。

 

 

Copyright (C) 2009 by drivemycar All Rights Reserved

 

 

 

 

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コメント

こ、こわすぎます;;
2009/09/04(金) 01:21:17 | URL | Bear Pooh #79D/WHSg[ 編集 ]
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