Drivin' with The Devil

主に自作小説・ロック論・マンガ論などを”狭く深く”書いてます。 どうぞ気軽に楽しんでいってください。。。!! 

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~第4章「危難」~

 

 

 数日後。
 ここは現実世界です。


 

「カツカツカツカツ……」
 誠がいつもより大きめのバッグに教科書やルーズリーフなどを詰め込んで、一人で歩いて登校しています。


 

 現実とドゥリムランドゥとの狭間で激しく揺れ動き、深刻なアイデンティティ崩壊を起こしかけていたここ何週間かの誠でしたが、“自己の声を聞いた”ことで、それを思い切り外に出したことで彼の心境に大きな変化が表れていました。


 

 それは誠自身も実感していたことですが、彼の言葉や行動の端々に“熱気”のようなものが感じられるようになっていたのです。
 これまで“クール”と思われ、あまり積極的に自分から動くことを見せなかった彼が少しずつ能動的になっていたのです。


 

 そのような誠の変化に真っ先に気づいたのはもちろん親友の明石であり、和美たち仲間でした。
 そして、あの人も気づいていました……

 

 

「マコ、おはようっ…!」
(マコって……!?)
 しばらく聞いていなかった、どこか懐かしい声が歩く誠の後ろから聞こえてきました。


 

「えっ……?」
 立ち止まり、振り向くとそこには純子が笑顔で立っていたのです。
「や……やぁ……!」
 予期しなかった元恋人の出現に誠は驚きを隠せずにいます。


 

「久しぶり…!」
 屈託のない笑顔で純子はグングンと誠の内部へと入ってきます。
 その遠慮のなさを見て誠は何故か静架のことを思い出していました。


 

「あぁ……」
 なかなか自分のペースを取ることができずにうろたえる誠。


 

「今さ、時間大丈夫……?」
「1限目が概論なんだ……必ず出ないと……」
 誠の口調はどこか純子を寄せ付けない雰囲気を漂わせていました。


 

「概論の出席取るのって一番最後でしょ…!最後に間に合うようにするからちょっとお茶でもしない…?」
「えっ……?」
 突然の純子の提案に誠は目を丸くしました。

 

 

「なぁ、こんな所に来て大丈夫なのか…?」
 誠と純子は大学に程近いファーストフードショップにいました。


 

 場所柄か、店内は学生で賑わっています。
 グループもカップルもいれば、一人で黙々とレポートを書いている学生も、ひたすらメールをしている学生もいます。
 まさに“もう一つのキャンパス”的空間がそこにはありました。


 

「“大丈夫”って当たり前じゃないの……ただお茶をしているだけよ……」
 シレっとした様子で純子が答えます。
 二人は店内の一番奥にある喫煙席に席を取っていました。
 誠はタバコを吸いませんが、純子がチェーンスモーカーなのです。


 

「俺はなぁ、あの彼氏に悪い気が……」
「あぁ……別に気にしなくてもイイよ……付き合ってはいるけど婚約者でも何でもないんだし……」
「カシュッ……」
 そう早口で言うと純子は細長いメンソールタバコに火を点けました。


 

「スゥーッ……」
 手馴れた動きでタバコを操り、紫煙を口から気持ち良さそうに吐き出す純子。
 その様子を見て誠は懐かしさを覚えましたが、同時に例えようもない嫌悪感も湧いてきました。


 

「純子、あの彼氏の前ではタバコ吸わないんだな……」
「ウン、スポーツマンはうるさいのよ…自分だって吸うくせにね……」
「グホッ……」
 誠はタバコの煙にむせ返りました。


 

「あ、ゴメンね……ところでさ、マコ。」
「ん…何……?」
「アナタここの所凄くカッコ良くなってきたよね……」
「ハァ……!?」
 予期していない純子の台詞でした。


 

「上手く表現できないけど……どこか逞しくなったというか……前の優柔不断な所がなくなったよね……」
(そんなものなのかな……?)
 誠はこの言葉を口に出さずに心の中に書き出しました。


 

 かつて振られた恋人から評価されるということ自体は非常に嬉しいことでしたが、今の誠の心に現在進行形で純子が入ってくることはありませんでした。
 それどころか彼女の言葉から受ける蓮っ葉な印象がこびり付きそれがさっき抱いた嫌悪感に拍車をかけてさえいるのです。


 

「純子……俺そろそろ講義に行かないと……話がそれだけならもう行くよ……」
 その言葉が優しさを塗した精一杯の拒絶の意思表示でした。
「そう……わかったわ……また時間がある時に今度は食事でもしましょう……」
 純子はあっさり引き下がりましたが、言葉の中に険が含まれていることを敏感に察知する誠です。


 

「ごちそうさま……」
 誠はそう言うと純子を見ずにショップを後にしました。
「フンッ……」
 純子は憤懣やるかたない様子で紫煙を吸ったり吐いたりしています。


 

「タタッ……!」
 一方の誠もとても気まずい、そして気分が悪い様子です。
 そんな思いを振り切るかのように彼はキャンパスへの歩を速めました。

 

 

×××××××

 

 

「珍しいよな…お前から飲もうだなんて…」
「そうか……!?」


 

「うん、珍しいよ、うん……」
 そう言うと明石は目の前のジョッキに注がれたビールを、
「ンゴッ、ンゴクッ……」
と一気に飲み干して、
「おかわり…!」
と店員に告げました。

 

 

 ここは仙台市の歓楽街にある居酒屋チェーン店。
 誠は明石を誘って男二人だけで飲みに来ていたのです。
 とはいっても誠はまだ未成年なので正確には違法なのですが、これは“おはなし”なので目くじらを立てずに読んでください。
 明石の方は一浪しており飲酒者としての条件はクリアしています。

 

 

「しかし純子ちゃんもよくわからない娘だよなぁ……」
 2杯目のビールをグイグイあおりながら明石が言います。
「確かにな……」
 誠は2杯目を水割りにチェンジして、ゆっくりと飲みながら呟きました。


 

「で、どうなんだ…?純子ちゃんとよりを戻す気は……?」
 忙しそうに前に出された串焼きをつまみながら話に没頭する明石。
「うーん…少し前なら戻したかもな……今はもうぶっちゃけそんな気ないんだ……」

 


「他に好きな娘でもできたか…?」
「な…何言い出すんだよ……!?」
「アハハハハハハッ…!誠は色恋事からきしダメだなぁ……!お前そんな答えじゃ“できた”って言ってるようなもんだぜ……!」
「あ……」
 誠は言葉に詰まってしまいました。


 

「ようし、純子ちゃんの話はもうやめだっ……!誠、教えろよお前の新しく好きになった娘を……!同じキャンパスの娘か……!?」
「………」


 

 改めてそう問い詰められると黙ってしまうしか誠にはありません。
 彼の頭の中には舞の凛々しくも美しい姿が浮かんでいましたが、まさかドゥリムでの出来事や先日の東京での事件を明石に話すわけにはいきません。
 話したところで“夢想者”と笑われるのがオチなのです。


 

「なぁ、明石…僕に好きな娘ができたのは事実だけども……ちょっと話し辛いんだよ…」
「ホウ……」
 明石は既に良い気分になっていますが、誠の真剣な口調に襟を正します。


 

「時期が来たら必ず話すからさ……今日のところはこれ以上訊かないでほしいんだ……」
「わかったよ…!」
「ありがとう…!」
「よし、今日はぶっ壊れるまで飲むぞぉっ……!」

 

 

×××××××

 

 

 誠と明石がその後どのくらいの量酒を飲んだのかは定かではありません。
 また、どのくらいの時間二人がぶっ壊れていたのかも定かではありません。
 ただ、何軒目かの飲み屋で二人は酔い潰れてそのまま寝入ってしまいました。

 

 

「………」
 誠は例によってドゥリムランドゥに辿り着いていました。
「くぅ……」
 ドゥリムに来た時には現実世界での状態を引き継いでいないとはいえ、軽いだるさを彼は感じており、それは酒のせいではないのかと思っています。


 

「スッ……」
 そのだるさを断ち切るべく誠はその場で冥想に入りました。
「ピカッ……!」
 すると誠の身体から青白い光が放たれました。
 青白の光に包まれた誠はひたすら冥想の世界に入り込んでいます。


 

「カッ……!」
 眼を開くと、そこには青い戦闘服に身を包んだ誠がいました。
 剣も同時に出現しており、左の腰にある鞘にきちんと収められていました。


 

「フゥーッ……」
 口をすぼめ、溜めていた息を一気に吐く誠。
「ジャキィッ……!」
 同時に収まっていた剣を抜きました。


 

「ピタァッ……!」
 青い光を放つ刃からは紅い炎も見え隠れしています。
「おりゃあぁぁぁぁぁっ……!」
 気合もろとも剣を上段から振る誠。


 

「タアァァァァァァッ……!」
 次は剣を右手だけに持ち替え、横から振り抜きます。
「ダアァァァァァァッ……!」
 更には再び両手に持ち、袈裟切りの要領で何度も上段の素振りを打ち込みます。


 

「ハァッ、ハァッ……!」
 約5分間全く止まることもなく、動き続けると誠の息も自然と荒くなってきます。
 そして額には玉のような汗が無数に浮かんできます。


 

「ビシュンッ、ビシュンッ……!」
 まさに周りのものが視界に入らない程のトランス状態の中で誠は自己修練に励んでいます。
 誠の生真面目な性格が彼の闘士としての資質を日増しに開花させているような印象さえ感じられるのです。


 

「ビシュンッ……!ビシュッ……!」
 誠が素振りのヴァリエーションを変えようと思ったその刹那に、
「ご精が出ますねぇっ……!」
 聞きなれない男の声が飛び込んできました。


 

「ハッ……!?」
 誠は慌てて素振りを止め、声の方を見ました。
「こんにちは……!」
 そこにはドゥリムの住人と思しき初老の白人男性が笑って立っていました。


 

 見たところ60代中盤のように見受けられます。
 薄い頭ながらも短く刈り込まれた白髪は清潔感に溢れ、黒ずくめの上下とバランスが取られています。
まさに“好々爺”といった風情の男性でした。


 

白人が流暢な日本語を話すことにやや違和感を感じる誠でしたが、
「こんにちは……!貴方は……?」
 笑顔を見せて応えます。


 

「私はご覧の通りこの世界の住人でございますよ……」
「そうですか、失礼しました……けど、何故突然僕に声を……?」
 流れ落ちる汗を用意してきたハンカチで拭いながら誠は努めて優しい口調で話しています。


 

「あちらの世界の闘士様だと噂で聞いたもので、どのような猛者なのかと見学に来たのですよ……」
 そう言いながら男性は距離を詰めてきました。
「そうだったんですね……それで僕を見た印象はどうですか……?」
 誠は不動のままです。


 

「……!?」
 距離を縮めてくる男性の姿を見て誠はある変化に驚きました。
 しかし、それを言葉にすることはありませんでした。


 

「貴方はとても強いですね……それでいて闘士としては未完成です……ということは更なる上積みをすることが貴方にはできるということ……」
「そうですか、照れますね……」


 

「私は世辞は言わんのですよ……」
 男性が間合いを突き破らんと更に距離を縮めてきます。


 

「好評価は大変嬉しいのですが……」

「ダダダッ……!」
 誠の言葉を遮って突如男性が飛び出しました。
 およそ60代の人間とは思えない素早さでした。


 

「サッ……!」
 しかし、誠は男性の行動を予見していたかのように身を翻しました。

 


「ジュッ……!」
 男性は右の拳を振り、フックの要領でパンチを繰り出してきました。
 が、それはあえなく誠にかわされてしまいました。


 

「ゲッ……!?」
 驚いた男性の口からそれまでの彼とは違う野卑な声が漏れました。


 

「甘いっ……!」
 誠はその瞬間を見逃しませんでした。


 

「ブゥンッ……!」
 目にも留まらぬ速さで剣を振り抜き、
「ブジャアァァッ……!」
 空を切り、だらしなく遊んでいた男性の右拳を一刀両断したのです。


 

「ゲガアァァァァァァァッ……!」
 腕を切られた痛みにのたうつ男性。
 その切り口からは黄色い液体がシューシューと滝のように溢れ流れています。
 おそらくは血なのでしょう。


 

「ゲガガガッ……!何で……俺が人間じゃないと悟ったのだぁっ……!?」
 獣のような声のトーンです。
 心なしか穏やかだった表情もどこか怪物じみたフリーキーなものへと変貌しています。


 

「影くらい付けた方が良いと思いますよ、化け物さん……いや、宇宙人さんと呼んだ方が良いですかね……!」
「ジャキッ……!」
 誠が剣を中段の位置で構えて、臨戦態勢を整えています。


 

「問答無用でいかせてもらいますよ、発展途上なもので……」
「ザザッ……!」
 摺り足で一気に距離を縮めた誠がとどめを刺すべく剣を振りかぶったその瞬間、


 

「ゲギャッ……!」
 男性、いや宇宙人と思しき化け物が誠を見据えます。


 

「………!?」
「シューシュー……!」
 宇宙人は切り口から噴水のように飛んでいる黄色い血を誠に向けて振りかけたのです。


 

「うわっ……!」
 怪物の予想だにしない攻撃を誠はかわすことができず、顔に黄色い血を浴びてしまいました。
「ガッ……」
 血液そのものには毒や刺激といった攻撃力は備わっていない様子でしたが、誠の視界を奪うのには十分な効果を発揮しています。


 

「グッ……ガァッ……」
 目に入った血液の異物感と視界を奪われた恐怖で今度は誠がのたうっています。
「ゲゲゲッ……甘いのはてめぇの方だったようだなぁっ……ウゲゲ……」
 怪物がとどめを刺さんとゆっくり近づいてきます。


 

「大分血を失っちまったからなぁ……お前の不味い血ででも補填しとくとするかぁ…ウゲゲゲ……」
 ペロリと舌なめずりをしたその舌先は鋭利な錐のように先端が尖っていました。
「とどめぇっ……!」
「ギジュッ……!」
 その怪しい舌を誠めがけて投げつけます。


 

「シュッ……!」
 誠が声の方に向けて剣を横に振りました。
「ジュッブゥゥゥッ……」
 青白く燃え盛る剣は怪物のどてっ腹を確実に切り裂きました。


 

「グワガギャアァァァァァァァァァッ……!」
 聞くに堪えない下品な叫び声は明らかに宇宙人の断末魔です。


 

「クソッ……何で……何でぇっ……!?」
「喋り過ぎなんだよ……」
 ハンカチで血を拭った誠。
 ようやく視界を確保できたようです。


 

「ブエッ、ブエッ……!」
 腹を切り裂かれても、断末魔の叫びを上げてもなお怪物は生き延びようと荒い呼吸をしています。
「うわぁ……」
 地球の常識では考えられない生命力に誠は戦慄せずにはいられませんでした。


 

「スクッ……」
 彼は意を決して立ち上がると、
「ビシュウッ……」
 袈裟切りで宇宙人の首を跳ね飛ばしました。


 

「ボタァッ……!」
 バランスを失って落下したスイカの如く、宇宙人の切り離された首は地面に落ちました。
「ドタアァッ……!」
 時間差で胴体も倒れ込みます。


 

「やった……ハァハァ……」 
 時間にしてみるとわずか5分弱の戦闘でしたが、それ以上の疲労感を覚える誠です。
「ズサッ……」
 そのまま尻餅をついて、地面に座り込んでしまいました。


 

 困憊状態の中で誠は、
(今のが本当に宇宙人なのだろうか……?)
という疑問を浮かべていたのです。


 

「クウゥ………」
 取れない疲労感に誠の呻き声も自然と大きなものになります。

 

 

「実沢さん……?」
 今度は聞き覚えのある女性の声です。
「ま…いさん……!?」
 誠の言葉の通りいつの間にか傍らに舞が立っていました。


 

「貴方も無事……だったのね……」
「ズサァッ……」
 それだけ呟くと舞もまた倒れこんでしまいました。


 

「舞さんっ……!?」
 誠は自分の疲れも忘れて飛び起きました。

 

 

×××××××

 

 

「……ハッ……!?」
「良かった……やっと気がついたようですね……」
 ここはドゥリムランドゥの草原にある大木の下。
 そう、以前誠が静架に介抱してもらった場所です。

 


「実沢さん……」
 おそらく誠と同等の、あるいはそれ以上の激闘をしてきたと思われ、疲労のために失神した舞を誠はこの場所まで運んできたのです。
 そして近くを流れる小川でハンカチを水に浸して舞の額にあてがい、彼女が目覚めるまで介抱していました。


 

「ごめんなさいね……私…何かとんでもない状態を見せちゃって……」
 起き上がった舞は赤面の様子で誠に謝罪しますが、
「気にしないでください……仲間が困っていたら助けるのは当然のこと。舞さんが謝る必要はどこにもありませんよ……」
 誠は水に浸したハンカチを絞りながら応えました。
 舞に対して抱いている気後れも今は薄らいでいるような感じがします。


 

「ハイ、これ……」
 ハンカチを差し出す誠。
「え……!?」
「少し左の膝が腫れているように見えます。もう少し冷やした方が良いですよ…」
「あ……ありがとう……」
 舞は誠の洞察力に驚いて、それでも感謝の言葉を忘れることはありませんでした。


 

「………」
「………」
 アイボリー色の空が澄み渡るドゥリムの草原は風がないせいもあって音一つ聞こえてきません。
 沈黙の時間だけがしばらく流れていました。
 しかし、それは二人、特に誠にとって決して気まずい類の時間ではなく、むしろ心地良く流れていくものでありました。


 

「ねぇ………」
 そんな中、先に口を開いたのは舞です。
「はい………」
「私に敬語なんか使わなくたっていいのよ……」
「……すいません、舞さんを目の前にすると何だか緊張しちゃって……」
「さん付けもいらないわ……うん、その気遣いがこっちには重く感じちゃうのよね……」
 誠に気後れが戻ってきてしまいました。
 心地良い空間に緊張が走るのを誠は敏感に感じました。
 しかし、その緊張感が実は自分から放出されていることを誠は気づいていません。


 

「……ホントすいません……けど、貴女は僕よりも年上だし、それに……」
「それに……!?」
「………」
「わかるわ…私がモデルだからでしょ……!?」
「ヘッ……!?いや、そのぉ………」
「ウフフフフ……隠し事ができない性格なのね…それでは答えを言っているのと一緒よ」
「すいません……」


 

 “すいません”ばかり言ってるなと誠は自嘲していました。
 舞の言ったことは図星で彼はトップモデルに登りつめようとしている彼女のオーラに完全に圧倒されていました。
 端から自分など対等に向き合えないと、自分を貶めた誠の取った最善策が謙って話すことだったのです。
 それすらも舞に悟られていたことでますます自分を貶める誠でした。


 

「ねぇ、実沢さん……あっ、この呼び方も他人行儀ね……これから“誠君”って呼ぶわ…」
「はい………」
「まずこれだけは知っておいて…私はモデルである前に女、そして人間…心から気を許して話すことができる友達だって沢山欲しいの…でもね、悲しいかな私のいる世界はそういう環境にないの…」
「………」
 思わぬ舞の自分語りに無言で驚く誠。


 

「好きで入った世界だし、私は世界一のモデルになることが夢だからどんなに辛いことがあっても耐えられる。それでもね…“蹴落としてやる!”って感情を剥き出しにして近付いてくるライバルの娘や思いつく限りの美麗字句を並べて近寄ってくる男の人たちにウンザリする時もあるわ……」
「………」


 

「私は私、白鳥舞がこの世に存在する意味を掴む為にモデルになった。けど、フッと油断するとその存在意味が日々の喧騒に埋もれちゃう時があるんだ……あ、もちろん向こうの世界にだって友達や大切な人はいるわよ、沢山…!」
「舞さん……」


 

「そんな時、私はどういう理由かここに召喚された。未だにどんな能力が私にあって召喚されたのか理由の一端すらわからない……」
 “自分と同じなんだな”と舞の告白を聞いて誠は感じていました。
「でも、でもね、私この世界で闘うことが言い方は変だけど何か楽しいの…!“あぁ、自分は必要とされてるんだな”って心の底から思うのよ……!そして何よりもここには私のいる世界のようなギスギスした人間関係がないし……!」
 舞は自分が何故ここまで雄弁に心の中にしまっていた感情を誠に吐露しているのかわからずに、しかしながら話さずにはいられないといった調子で話し続けています。


 

「だから、ここでは誠君や他のメンバーたちにも余計な気など遣ってほしくないのよ…!モデルとかタレントだとかそういう表の部分じゃなくて素の“白鳥舞”として接してほしいの…!ね、敬語が邪魔だって言った意味がわかったでしょう…?」
「うん……」
 舞の気持ちを察した誠は意識的に返事を変えました。


 

「同じだよ…僕と舞さんは……」
「誠君……!?」
「僕は華やかな世界で生きている舞さんに憧れの感情を持っているのと同時にそれ以上の“嫉妬心”を持っていたんだと思う……舞さんは綺麗で、何物にも負けることなく自分の道を進んでいる素敵な人だなって……でも、それ以上に“その為には随分色んなことをしてきたんだろう”って偏見というか、侮蔑の気持ちというか……」
 誠も舞が思ったのと同じく何で自分がここまで普段なら絶対に話さないであろうことを雄弁に語っているのか不思議で仕様がありませんでした。
 そして、以前静架と話した時にもこういう感情になったことを思い出しています。


 

「“好き勝手してきたんだな”なんて思ったんだよ……けど、今舞さんの話を聞いて、貴女が信念のある人だってことはわかったけど、僕と同じで弱さを持った人なんだってこともわかった……」
「ウン……」
「何か“自分一人だけじゃない”ってね……思ったんだよ……僕はまだフラフラした大学生でこれといった目標もなく暮らしている……でも心の奥深いところではずっとやってみたいと思っていることがあって……」
「聞かせてよ、聞きたい……!」


 

「小さい頃から映画を観るのが大好きで、ただ観るんじゃなくて“あ、僕ならこのシーンはこう撮るな”とか“あ、この話なら僕はこの役者を使うな”っていう観方をずっとしてたんだ……自分にそんな才能があるかどうかなんてわからないけど、なれるのなら映画監督になりたいなぁなんて……」
 多少恥ずかしさが入り混じったせいでしょうか、誠の声がだんだんか細くなっていきます。
 舞はそんな誠の様子を見て、その幼さに母性本能をくすぐられていました。
「本当に…全然勉強もしてないし、大学でもそういう活動してないし……無理かなぁって思うんだけど……うん、なれるならなりたいんだ……!」


 

「なれるよ……!」
「エッ……!?」
「誠君が“映画監督になりたい”って思った気持ちを外に向かって出していけばなれるよ、今私に話したみたいにね……」
「………」
「ただし、思っているだけじゃダメ…行動に移すことが大切…そして貴方はもうその行動を起こしてる……」
「………!?」
 誠は舞が何を言っているのかさっぱりわからずに困惑しています。


 

「私に話してくれたじゃない…!今まで誰にも話したことなかったんでしょう…?」
「う、うん……」
「大きな第一歩じゃない……!後は少しずつでも良いから歩むのを止めないこと…そうすればきっとあなたは立派な監督になれる……!」
「ホント……かなぁ……」
「あら、私の千里眼を疑うのね……!」
「い、いや…そうじゃなくて……ハハハハッ……!」
 突然誠が笑い出したので舞はキョトンとしました。


 

「何よ……急にどうしたの……!?」
「舞さん、“千里眼”なんて言葉っ……!いつの時代の生まれだよぉ……!ハハハハッ……!」
「まぁ……!そんなところで笑わなくてもいいじゃないの……!」
「ハハハハッ……!」
「ウフフフフ……!」
「舞さん、ありがとう…」
「こちらこそありがとう…」
 二人が完全に打ち解けた瞬間でした。


 

 その後舞の膝の腫れが落ち着くまで二人は様々な話を交わしました。
 それは舞にとっても楽しいひとときでしたが、誠にとっては至福の時と言っても良い素晴らしい時間でした。


 

 舞の子供時代、男の子と一緒に遊んで泣かしてしまうほどヤンチャだったという話や、イタズラで学校のガラスを割って先生にもの凄く怒られた話。
 そして高校時代の悲恋に終わった恋の話など。
 そのどれもが面白く、舞という女性の魅力の礎となっており興味深いものでした。
 誠も当然自分の身の上を話しましたが、別段ドラマティックな人生を送っているわけでもない年下の男の話を舞は飽きる様子も見せずに真剣に聞いてくれたのです。


 

 この時点で誠は完全に白鳥舞の虜になっていました。

 

 

「あっ………」
 誠が何かを思い出したようです。
「どうしたの……?」


 

「いや、話に夢中ですっかり忘れてしまっていたけども今日は他のメンバーはどうしたんだろう……?」
「そういえば……私たち二人だけってことはないわよね……?」
「もしかして僕たちと同じように宇宙人と…闘っているかも……!」
「それじゃあ…!?」


 

「捜そう……!」
「うん……!」
 二人は立ち上がり木陰を後にしました。

 

 

×××××××

 

 

「クソッ……!」
 ぞんざいに捨て台詞を吐いたのは利樹でした。
「ハァハァハァハァ……!」
 その息遣いはまるでフルマラソンを走り切ったランナーのように荒いものです。

 


「………」
 利樹の足元には胴体を真っ二つにされたもの言わぬ死体が転がっていました。
 ドゥリムの住人と思しき雰囲気の若い女性です。
 切り口からは黄色い液体がまだ溢れ出しています。
 利樹も誠たちと離れた場所にて宇宙人との戦闘を余儀なくされてたのです。


 

「クソッタレがぁっ……!」
 勝利を収めのたにも拘らず利樹の表情は冴えません。
 それどころか呪詛に満ちた言葉を天に向かって吐き続けています。


 

「寺岡さーんっ……!」
「利樹君っ……!」
「………!?」
 自分の名前を呼ぶ聞き慣れたメンバーの声に利樹は振り向きます。
 しかし、それが一人ではなく二人、もっと言うと舞と誠の声であるところに利樹はモヤモヤした感情を覚えました。


 

(何であの二人が一緒なんだ……!?)
 表情が強張るのを利樹は肌で感じています。


 

「タタタタッ……!」
「やっぱり……寺岡さんも宇宙人に襲われていたんですね…!」
「倒したのね……よかったわ、無事で……」
 舞と誠は利樹が無傷で宇宙人を退治したことで喜んでいました。


 

「宇宙人……!?こいつがか……!?」
 しかし、利樹は面白くない感情でいっぱいです。
 二人のそれまでとは違う、どこか親密な雰囲気にドス黒い嫉妬を抱き始めていました。


 

「お前たちも宇宙人に襲われたってか……?」
 荒々しい口調で事柄を確認していく利樹。


 

「そうよ……最初に遭遇したのは誠君のようだけどね……」
「僕を襲った奴は中年の男に化けていました……」
「私もそうだったわ……利樹君の相手は女性に化けていたのね……最初は色仕掛けに乗りそうだったんじゃ……?」
 利樹の顔から血の気がサーッと引きました。


 

「見てきたようなこと言ってんじゃねぇぞ、このアマっ……!」
 言葉とは裏腹に自分の痛いところをズバリ突かれてしまったバツの悪さで激高する利樹です。
「何よ……!アナタの憎まれ口を真似てみただけじゃないの……!」
 このくらいの冗談は受け流させるだろうと語った舞でしたが、予想外の反応に身を硬くして反撃に転じます。


 

「舞さんも寺岡さんもよしてください…!」
 慌てて舞と利樹の間に割って入る誠。
 彼は舞を背にして利樹の眼前に立ちました。
 その行動、仕草のひとつひとつが利樹には面白くありませんでした。


 

「引っ込んでろよ、優等生……!」
 利樹の荒ぶる口調は止まるとこを知りません。


 

「大体、お前ら俺を見つけるのがやけに遅かったじゃないか…!?大方二人で協力して敵を倒した後に川のほとりで乳繰り合ってたんじゃねぇのか……!?」
「ちょっ……アナタこそ想像で何言ってるのよ……!私たちは各々別な敵を倒して……それで怪我をした私を誠君が……」
 この舞の素直過ぎる反応も利樹にとっては面白くありませんでした。


 

「“誠君”かぁ……逢瀬を重ねた間柄になると違うねぇっ……!」
 野卑そのものの表情と言葉で舞を罵倒します。
「………」
 舞は言葉を失い、その場に立ち尽くしてしまいました。


 

「ザッ……!」
 そこに再び誠が立ちはだかりました。


 

「何だ……!?お前には用がないんだがな……」
「アナタは舞さんの彼氏でも何でもないのにどうしてそう余計な詮索をするんだ…!?」
 誠の目に怒りの炎が宿っています。
 そのことも利樹には当然面白くないものです。


 

「未来の花嫁の心配をして何が悪いんだい……?」
 いけしゃあしゃあとした態度の利樹。
「舞さんを侮辱した発言を取り消せ…!」
 誠も負けてはいません。
 彼には珍しい直情さで利樹に詰め寄ります。
 これにはさすがの利樹も少し躊躇いを覚えましたが、彼は持ち前の皮肉さと人生経験で誠に応えます。


 

「お前さぁ、みっともないんだよ…!」
「何がだっ…!?」
「ちょっと舞と親しくなったからって恋人面するなって言ってんだよ、このチェリーボーイ君……!」
「何だと……!」

 

 

「ブウンッ……!」
「ボゴォッ……!」
 完全に利樹の不意打ちでした。
 彼は勢いのある左ストレートを誠の顔面に打ちました。
 サウスポーではない利樹の思わぬ一撃を誠はかわすことができません。


 

 右の頬骨の辺りを的確に捉えたパンチを浴びた誠は、
「ぐふぅ……」
倒れることこそしませんでしたが、その場に悶絶しています。


 

「誠君……!アナタ、何てことを……!?」
 誠の側に舞が駆け寄ります。
「くだらねぇメロドラマなんか俺の目の前で見せるんじゃねぇよ…!なぁに、殺しはしないさ……コイツが貴重な戦力だってことくらい重々承知してらぁな……!でもな、力関係はハッキリさせておかないとな……!」


 

「利樹君……アナタって人は……」
 そう言って彼に詰め寄ろうとする舞を、
「ガシッ……!」
誠が制しました。


 

「誠君……!?」
「舞さん、いいんだ……僕と寺岡さんはいつかこうなると思っていたんだ……これからのことを考えたら僕らは一度徹底的にやり合うべき……」


 

 さっきのパンチで口の中を切ったのでしょう、唇の端から一筋の鮮血を垂らしながら誠が決意を表しました。

 

「誠君……」
「大丈夫……僕も利樹さんもね……黙って見ていてください……」

 


「それでこそ潰し甲斐があるってもんだっ……!」
「ダダダッ……!」
 舞が誠から離れたのを認めた利樹が再び一撃を繰り出さんと距離を詰めてきました。


 

「お前はあの静架とかいうガキと遊んでいるのがお似合いさっ…!」
 一撃を決めた余裕からか利樹の言葉はよりグサリと突き刺さるような内容になっています。


 

「ブウゥンッ……!」
 今度は利樹のフィニッシュブローである右ストレートでした。
 そこに時間をかけずに一撃で相手を沈めようという利樹の戦術・性格が見て取れます。


 

「ハッ……!」
 そのスピードに誠は驚きました。
 更に利樹のパンチは驚異的な伸びを見せてきます。
 これでは避けても避け切れずにパンチをもらってしまいます。
 既に一撃を喰らっている誠にとってもう一回ストレートを喰うことは負けを意味していました。


 

(どうする……!?)
 誠は一瞬の時間の中で考えました。
「フゥッ……!」
 答えが出たようで、短い気合もろとも誠は右足を思い切り上げます。


 

「ビシュウッ……!」
「何っ……!?」
 誠の右足が風を切った音に利樹が驚きの声を上げました。


 

「ガゴォッ……!」
 誠の右足、正確には内側部が利樹懇親の右ストレートを弾き飛ばしました。
「グワァッ……!」
 蹴飛ばされた勢いでもんどり打つ利樹。


 

「ドサァッ……!」
バランスを失って利樹が腰から崩れ落ちます。
(バカな……!俺のパンチをあんな蹴りで……?)
 自身も防御で頭等を打つことはありませんでしたが、あまりの誠の反撃に次の一手を打ち出せずにいました。


 

 そこへ、
「ダダダッ……!」
今度は誠が距離を縮めてきました。
「ビュンッ……!」
 誠は尻を付いて呆然と座っている俊樹に向かって短いモーションで袈裟切りのチョップを繰り出しました。


 

「ガスッ……!」
「ガアッ……!!」
 手刀は利樹の左鎖骨の辺りにクリーンヒットして、利樹を寝転がせました。


 

「ハッ……!?」
「ズサァッ……!」
 利樹が気づいた時には、彼は誠によってマウントポジションを取られていました。


 

「チェックメイト……」
 組み伏せた誠が笑顔で囁きました。
「クソッタレ……がぁ……!」
 負けを認めざるを得ない状況にあっても精神的優位に立たんと憎まれ愚痴を叩く利樹です。


 

「勝負ありだわ……」
 冷静さを取り戻した舞が二人のもとへ歩み寄ってきました。


 

「クソッタレめ…俺が……アスリートの俺が……エキスパートの俺が……こんなクソガキに負けるなんて……こんな才能だけの奴に……」
 目に涙を浮かべて利樹が語り続けています。
 溜まった涙はすぐに溢れて、彼の目尻から地面へとポタポタ落ちました。


 

「才能……!?」
 誠が当惑します。
「てめぇの才能だよぉっ…!!前に“声”も言ってたんじゃねぇのか……!?お前の身体能力はとんでもないんだよ、アスリートの俺から見てもな……!」


 

「アスリート……」
「利樹君は社会人スプリンターなの……」
「あぁ……」
 舞の一言で誠は利樹の自己紹介の時を思い出していました。
 このプライドの高さと自分に対する自身は一流運動選手のそれだなと今更ながら痛感する誠です。


 

「俺はな、ガキの頃から陸上一本でここまで来たんだ……!他のものになんか一切目もくれなかった…!ゲームだって、合コンだってまともにやったことねぇんだよ…!俺は…“練習し続けないと負けちまう”ってそんな気持ちでずっとやってきたんだ…!お前らには想像すらできないだろうがよ…!」
「………」
 号泣しながらの利樹の独白に誠は声を失ってしまいました。
(こないだの僕もこうだったのだろうか……?)


 

 誠は闘士として目覚めた時点で、好き嫌いは別にして利樹の技量、そして何事にも動じることのない冷静さに尊敬の念を抱いていました。
 だから、今この場面で冷静さをかなぐり捨てて思いのたけを告白し続ける利樹の姿は彼のイメージとはおよそかけ離れたものとして誠の瞳に映りました。
 しかし、それでも誠は利樹のことをかっこ悪い・弱い人間だとは思いませんでした。
 むしろ自分と同じ負の部分を持ち、懸命にそれと向かい合い、乗り越えようとしている姿に方法論こそ違えど、親近感・仲間意識のようなものを感じずにはいられなかった誠です。


 

「俺は誰にも負けたくないんだよぉ……負けたらおしまいなんだよぉ……ウッ、ウッ…」
 嗚咽を交えて泣き話す利樹の姿はまさに自分が通ってきた道であると胸を突かれる思いの誠。
「スゥーッ……」
「舞さん……」


 

「ピタッ……!」
 泣き崩れる利樹の右手を舞が握り締めました。
「サッ……ピタッ……」
 それに呼応して誠も二人の手の上に自分の掌を重ねます。


 

「ここでは負けることを考えなくていいの……」
「そうです…大切なのは“勝って守る”ことです……」
 自分の中から不思議な感情が澱みなく溢れてくるのを誠は感じています。
 利樹と舞の手の温もりを感じながら…


 

「アナタは今のままの皮肉屋でいいのよ…無理して自分を変える必要なんてない……」
「その代わり僕たちを、そして自分を信じて進んでいきましょう……!」
「アァァァァァァァッ……!」
 声にならない嗚咽と共に起き上がった利樹が身を委ねるようにして誠と舞に抱きついてきました。


 

「ガシッ…」
「ヒシッ…」
 その動きをしっかりと受け止める誠と舞。

 

 

 また一つ邂逅の瞬間を迎えました。

 

×××××××

 

 

 その少し後。

 

 

「ブジュウゥゥゥゥゥッ……」
 徹郎も他のメンバーと同様、ドゥリム住人に化けた宇宙人と死闘を繰り広げていました。
 彼の黒く光る日本刀が10代後半の青年の姿をした宇宙人のみぞおちの辺りにめり込んでいきました。


 

「ゲバアァァァァッ……!」
「ガシッ……!!」
 およそ人間とは思えない物凄い唸り声を上げながら宇宙人が必死の抵抗を見せます。
 自身の肉体にめり込んだ剣を引っこ抜かんと素手なのに刃を掴んでいるのです。


 

(しまった……!人間とは急所が違うのか……!?)
 みぞおちを貫いたのにも拘らず絶命しない化け物を見て徹郎は己の戦術の誤りに気付いたのです。


 

「クアッ……!」
「ブジュウルゥッ……!」
 前に力を入れている化け物に逆らいつつ、流れに乗った形で徹郎は日本刀を抜き、切っ先が宇宙人の身体から出てきたその瞬間に刀を上に振り上げました。
 刀を握っていた宇宙人の両手指はあえなく切り離されました。


 

「もらったぁっ……!」
「ビシュウンッ……!」
 徹郎の掛け声と共に刀が唸りを上げて振り下ろされました。


 

「ブジュウヂュウ……!」
 脳天唐竹割りが見事に決まりました。
 肉を切り裂く音。
 そして宇宙人の身体は脳天から真っ二つに裂かれていきます。


 

「ギギャワァァァァァァァァッ……!!」
 狂ったような咆哮は化け物の死に行く叫び声。
「ボタンッ……!」
 二つとなった骸はほぼ同時に地面へ倒れました。


 

「シャッ…シャッ…スチャッ…!」
 手早く刀に付いた黄色い血を振り払った徹郎は、更に手早く刀を鞘へと収めました。
「こいつらは一刀両断にしないと死なないのか……さっきは流れで唐竹割りにしたが、首を刎ねた方が早いかもな……」
 冷静かつ緻密な分析を骸を確認しながら行っています。


 

「ハッ……!?」
 突然背後に気配を感じた鉄郎が振り返ると、
「やぁ……!」
そこには誠、俊樹、舞の三人が笑顔で立っていました。


 

「お見事っ…!」
「凄い技を見せてもらいました…!」
「徹郎さん、強いですね……」
 それぞれ利樹、誠、舞の言葉です。


 

「いつから見てたんだね……?」
 三人が気配を消して自分の闘いを見ていたことに徹郎は驚きを隠せませんでしたが、別段そのことを恥じる様子もなく素直に問いただします。
「いや、僕らは来たばかりでした…闘いがもうクライマックスに入っていましたし、中山さんの勝ちが見えていましたから……」
「邪魔しちゃ悪いなって思ったんだよ…!」


 

(おやっ……!?)
 ここまでの三人の言葉を聞いてようやく徹郎は彼らの心情の変化に気付きました。
「君たちは……今日一日で何かあったのかい……?」
 疑問を素直にぶつけるのが徹郎の気性のようです。


 

「何かって……!?」
 舞がおどけた口調で返します。
「とりあえずはわかり合えたってことじゃないのかな……」
「そうですね……」
 利樹と誠も笑顔を崩さずに舞に続きます。


 

「これは嬉しいな……!」
「えっ……!?」
「いや、俺はこのチームがドゥリムを守る核になるんじゃないかってずっと思っていたんだ……しかし、場合によってはすぐに空中分解する可能性もあると思っててね……」
「へぇ……」
 徹郎の思わぬ告白に三人が目を丸くして驚きました。


 

「分解するような原因は二つあった。一つは誠君と利樹君の軋轢、そしてもう一つは君たちの間の三角関係だ…!」
「ブッ…!!」
「エッ…!?」
「まぁ……」
 三人は一層の驚きで一様に声を上げました。


 

「君たちは、特に誠君は意識していなかったようだけども、誠君と利樹君は舞君に好意を持っている…それが恋愛感情かどうかは別にしてね…」
「………」
 今度は皆黙って徹郎の話に耳を傾けています。


 

「俺もこれまでの人生でな恋愛模様を見てきたが、同じ場所での三角関係くらい厄介なものはないんだ。どんなに上手くいっている集団でもそこからヒビが入って、下手をすると崩壊してしまう危険すら孕んでいるんだよ……だから君たちの関係も内心冷や冷やしながら見ていたんだが、今はとてもフラットな感じに見えるんだよ……」


「まだ、ケリはついていないですけどね…!」
 珍しく誠がおどけます。
「俺の未来のカミさんを奪うってか……!?」
 誠の冗談もそうですが、利樹の皮肉から完全に険が取れていることも徹郎には驚きでした。
「私にだって選ぶ権利くらいあるわ……フフフ……」
 舞の言葉からもそれまで端々にあった女王様然とした雰囲気が薄らいでいました。


 

(これは……本当に最強チームになるかもな……)
 先般宇宙人を倒したこと以上に嬉しい気持ちが徹郎の心の中にふつと湧き上がっています。

 

 

「ところで徹郎さん……」
 誠の声です。


 

「何だ……?」
「僕たちから貴方にお願いがあります。」


 

「ん……!?」
「このチームのリーダーになってください……」
「おいおい、いきなり何を言い出すんだ……!?このチームにリーダーはいらないって俺は考えていたんだけれどな……チームワークさえあれば大丈夫だと……」


 

「そんなにシンプルな話じゃないっしょ…!リーダーがいるのといないのとじゃ大違いだって…!」
 利樹が徹郎のやんわりとした断りを制します。
「利樹君の言う通りです……このチームにリーダーは絶対に必要ですわ……年齢、経験、戦闘能力、技術、どれを取っても必要な条件を満たしているのは徹郎さん、貴方しかいません……」
 舞の言葉も自然と力が入っていました。


 

「うーむ………」
 腕組みをしてしばらく熟考した徹郎が出した答えは、
「よし、わかった…!俺がリーダーになろう……!」
「ありがとうございます……!」


 

「ただし、条件がある。俺は自分の考えを一方的メンバーに押し付けるやり方が好きじゃないんだ……だから、このチームの動きは基本的には皆の自主性に任せたい、というかそうじゃないとダメだ……どうしても究極的に俺が決定しなければいけない状態以外は若い君たちが中心になって動くんだ、いいな……!」
「了解…!」
「はいよ…!」
「わかりました…!」
 三人がそれぞれの個性を持った言葉で返事をしました。


 

「あとな、俺のことを“リーダー”と呼ばないこといいな……!」
「アハハハハハハハッ……!」
 一斉に笑い出した三人。
 それは明らかに“了解”の合図でした。
「よし……!」
 それを見た徹郎は強面の顔を嬉しそうに笑ってリーダー就任を承認したのです。


 

「徹郎さん……」
 誠が再び口を開きました。


 

「ん……?」
「静架ちゃんもきっと召喚されているはずです……姿を見ませんでしたか……?」
「いや……召喚されて皆を捜そうと歩き始めた時に奴が現れたから見てない……」
「すると召喚されているならば確実に敵と出会っているはずね……」
「こうしちゃいられないぞ…!急ごうぜ……!」


 

 かくて四人は静架を捜さんと走り出しました。

 

 

×××××××

 

 

 ここはドゥリムランドゥの外れも外れにある洞窟。


 

「ダダダダダッ……」
 誠たち四人は静架を捜しに今まで来たことのなかったこの洞窟までやって来ました。
 洞窟を発見して立ち止まるメンバー。


 

「おい……ここ怪しくないか……?」
「そうだな……探索する必要はあるだろう……」
「全員で突入する……?」
「いや、見張りを一人置いた方が良いと思う…」
 誠の提案に皆賛成のようで深く頷きました。


 

「私が残るわ……」
 舞が見張りを志願しました。
「大丈夫かよ……?」
「大丈夫、何かあったら私も後を追うから……」


 

「よし、舞君が見張りだ……何か危険なことがあったら無理せず中に入って俺たちを呼んでくれ……!」
「はいっ…!」
 徹郎が判断を下したことで布陣が決まりました。


 

「よし、行くぞ…!」
「気をつけてね……」
「おうっ……!」
「舞さんも…!」
「ザクザクザク……」
 こうしてチームは二手に分かれて行動することになりました。

 

 

「おーい、ここからは暗過ぎて明かりがないと進めないぞ……!」
 洞窟の中を500mほど進んだ所で利樹が大声を上げました。
「大丈夫だよ……」
 誠が応えます。


 

「へ……!?」
「ムンッ……」
 暗くて様子はわかりませんでしたがどうやら誠は専用剣を構えて瞑想しているようです。


 

「ボワァッ……!」
 誠の剣から青白い炎が噴き出してきました。
「なるほどね……」
「利樹君だってその斧を松明代わりにしても良いんだぞ…」
 そう提案したのは徹郎です。


 

「い、いやぁ…今のところは一本でこと足りるんじゃね……?」
 徹郎の提案を何故か勢い良く断る利樹。
「中山さん、今はいいですよ…真紅の斧には後で沢山活躍してもらいますから…!
「そうだな……」
「チェッ……」
 利樹はどこか居心地が悪そうな感じです。


 

「さぁ、先を急ぐぞ……!」
 三人は更に歩を進めていきます。

 

 そこから300m程進んだ辺りで、
「アッ……!?」
 明かりを持っていた誠が何かを発見したようで驚きの声を上げました。

 

 

 そこから300m程進んだ辺りで、
「アッ……!?」
 明かりを持っていた誠が何かを発見したようで驚きの声を上げました。

 


「何だ……?」
「どうした……?」
 先を確認できなかった徹郎と利樹が誠の側へ寄ってきます。


 

「あそこに誰か…倒れている……!」
 そう言って誠が指差した先、およそ50mの地点には確かに人が倒れていました。


 

「静架ちゃん……!」
「ダダダッ……!」
 深夜並みの暗さの中を誠は一人走り出して倒れている人のもとへ向かいました。


 

「危ねぇって…!まだ静架だって決まったわけじゃないだろうが……!」
「まぁ、察してやろう……それより俺たちは誠君の援護だ……」
「へいへい……」
 明かりのない二人は先の誠の後姿を頼りに歩き出しました。


 

「タッタッタッ……」
 誠は人影に近づいていきます。
 人影はうつ伏せに倒れており、顔は見えませんが大人の人間にしては小さいように誠には感じました。


 

「静架ちゃん……!」
 人影に辿り着いた誠。
「ズサッ…!」
 適当な距離で剣を地面に刺すと、
「グッ……!」
うつ伏せになった身体を抱きかかえました。


 

「………!」
 表情を確認する誠。
「静架ちゃん……!」
 倒れていたのはやはり静架でした。


 

「静架ちゃん…大丈夫か…!?しっかりするんだ……!静架ちゃん……!」
 動かないので生きているのか死んでいるのか判断のつかない静架の意識を確認するべく身体を揺らす誠。
「揺らすなっ…!危ないぞっ…!!」
「ハッ……!?」
 それを制したのは徹郎でした。


 

「静架ちゃんがどういう状況なのかわからないのに揺らすのは危険だと言ってるっ……!まず脈を確かめろ……!」
「た、確かに……」
 誠は倒れた静架を目の前にして自分が取り乱していることを忘れてしまっていたのです。


 

「ゴクリ……」
 懸命に気を落ち着かせています。
「サッ……」
 そしてゆっくりと静架の右手首を取り脈を確認しました。
「トクッ……トクッ……」
 やや途切れがちではありましたがはっきりと脈を打っています。
「脈は…あります……!生きています」
 既に誠のすぐ後ろに控えていた二人に伝えます。


 

「そうか、ではここを出るぞ……!」
「えっ……!?」
「こんな暗い所では何もできやせん…!それに酸欠になる可能性だってある。誠君、静架ちゃんをおぶるんだ…ここを出るぞ……!」


 

 徹郎の迫力のある言葉に誠も利樹も従うしかありませんでした。
 二人はリーダーの経験値の高さに改めて敬服していました。

 

 

×××××××

 

 

「アッ……!?」
 無事に洞窟を脱出した三人が一様に驚きの声を上げました。

 


「舞さんっ……!」
 舞が静架と同じようにうつ伏せの状態で倒れていたからです。
 慌てて駆け寄る三人。


 

「おいっ……!?舞っ……!?」
 徹郎のアドバイス通りに身体を揺さぶらずに利樹が舞の様子を確認します。
「ウーン………」
 舞は目を閉じたまま身体をくねらせ、身悶えています。


 

「良かった……!大丈夫そうだぞ……!」
「ホッ……」
 安堵する誠と利樹。


 

「いや、安心するのはまだ早い……!」
 そこに徹郎が釘を刺します。
「えっ……!?」
「目先の情報に一喜一憂していては身が持たないぞ…!舞さんが何故倒れていたのかその原因を探るんだ…!」
「………」
 徹郎の言葉から導きされる事柄はチームにとって空恐ろしいものでした。


 

「舞を襲った奴がいるってことだな……」
「そして…そいつは静架ちゃんも……」
「そうだ…!そいつを倒さないことには俺たちは現実世界へ戻れん……!」
「ジャキッ……!」
 黒日本刀を構えて徹郎が周囲を窺っています。


 

「ハッ……!?」
 そのやり取りの間に舞が目を覚ましました。
「舞っ、大丈夫か……!?」
「……寺岡さん……実沢さんも……」
「………!?」
 誠は嬉しさの中に困惑の混じった表情を見せます。


 

「俺たちは何ともねぇっ…!とにかく無事でよかった……けどな舞、ちょっ今状況が悪いんだよ……」
「状況……!?」
「舞さん…どうして気を失っていたか知りたいんです…怪物に襲われたんですか……?」
 抑揚のない事務的な口調で誠が尋ねます。
 その誠の様子の変化に興奮している利樹は気付いていません。


 

「わから……ないの……後ろからいきなり殴られるかして……気付いたら皆が……」
「ふむ……」

「徹郎さん……」
「うん……?」


 

「この場に留まっているのは危険だと思います……敵の正体や数が掴めないのは厄介ですが、少しでも人通りのある所へ移動した方が勝算があるんじゃないかって……静架ちゃんの容態だって誰かに診てもらわないと……」
「……そうだな……よし、町へ行こう。誠君はそのまま静架ちゃんを守って、利樹君は舞さんのサポートを頼む。」
「はい…!」
「はいよ……!」
「ザッ……!」


 

 そして五人が一歩を踏み出そうとしたその刹那、
「ビュワァァァァァァンッ……!!」
 空を切り裂く轟音が鳴り、
「ボゴワッ……!ボゴワッ……!ボゴワッ……!ボゴワッ……!」
 四人を襲いました。


 

「………!?」
「………!?」
「………!?」
「………!?」

 

 

 四人は何に襲われたのか全く確認することもできないまま気を失ってしまいました。

 

 

×××××××

 

 

「………ムゥ………」
 後頭部に感じる激しい痛みで誠が身体を捩じらせています。

 


「バッ………!!」
 自分の身が無事であることは悟りましたが、状況がどうなっているかを確認するべく慌てて起きる誠。


 

「痛いっ……!」
 その勢いが後頭部の痛みに拍車をかけてしまったようです。
「れ………!?」
 状況が全くわからず困惑する誠。

 何故ならここは洞窟前ではなかったからです。
 それどころかドゥリムランドゥでもありませんでした。

 

 

「どうなってるんだ……!?」
 誠が目覚めた場所は自分の部屋で、それもベッドから外れてベッドとテーブルの間で寝ていたようなのです。
 外は薄っすらと陽が射しており、早朝だなとすぐに誠は感じました。


 

「何で……戻ってこれた……!?」
 困惑で独りごちながら痛みで疼く後頭部に無意識に手を当てます。
「ワッ……!」
 右手に伝わってきたのはドロリとした液体の感覚。
 見るとドス黒い血がもうじき凝固する状態になっていました。


 

「クゥ………」
 ドゥリムで何者かに襲われたのは事実のようです。
 意識が明瞭になってくると後頭部以外にも身体のあちこちに鈍痛を感じるようになってきました。
 苛立ちを覚えた誠が視線を移すと、
「ウワッ……!!」
 ベッドの上に静架が横たわっていました。


 

「静架ちゃん、静架ちゃんっ……!!」
 身体を大きく揺すらずに大声で彼女の意識に語りかける誠。
 しかし、静架は一向に目覚める気配すら見せませんでした。


 

「ガタッ……」
 誠は自分の怪我の手当ても忘れて慌てて身支度を始めました。


 

 

 

 

 

 

~つづく~

 

 

 

*この物語はフィクションです。

 


 

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