Drivin' with The Devil

主に自作小説・ロック論・マンガ論などを”狭く深く”書いてます。 どうぞ気軽に楽しんでいってください。。。!! 

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~第5章「真実を求めて」~

 

 

「フーム……」
 白衣姿の若者が聴診器を静架の身体に当てています。
 わずかに膨らんだ乳房が辛うじて彼女に生命力が宿っていることを表しているような感じです。
 側では顔をあさっての方向へ向けた誠と明石が座って成り行きを心配そうに見守っています。


 
 誠は静架を病院へ連れて行こうとしましたが、彼女が札幌の人間で、ドゥリムで出会っているのですから当然健康保険証など携帯していないことに気付きました。
 実費で医者に連れて行くことも考えましたが、静架の身元を尋ねられた時にドゥリムで交わした会話以外の情報を提供することができません。
 とするとあらぬ疑いをかけられることも想像に難くないです。
 熟考した末に誠が出した結論は親友の明石を通して医学部の学生を紹介してもらうことだったのです。

 

 

「明石、頼む…!何も訊かないで医学部の人を紹介してくれ…!絶対に秘密を守ってくれる、できれば女性が良いんだけど……とにかく後でお礼は何でもするから俺と静架ちゃんを助けてくれ…!!」
 このあまりの誠の真剣な嘆願に明石はただならぬものを感じて二つ返事で申し出を承知しました。
 そうして彼は連れて来たのが今静架を診ている学生です。


 

「明石……本当にありがとう……」
「いや、そんなことはいいんだよ…それよりも静架ちゃんだっけ……親戚に連絡しなくて大丈夫なのか……?」
 誠は静架のことを札幌に住む従妹だと嘘をついて紹介しました。


 

「うん……何しろ大変な喧嘩をして家出してきたようだからさ……でも、ここにいることは知っているし早いうちに連絡するよ……」
「それがいいよ……」
「ところで明石……」
「何だ……?」


 

「彼は……荒巻(あらまき)君は信頼できる人…?このことを喋らないような……」
「そのことなら心配ない…俺は奴の弱みを握ってるんだ…」
「弱み……?」
「あいつはモルヒネや麻酔薬の類を勝手に持ち出して外に売ってる売人なんだよ…」
「………!?」
「そのことを俺がバラせばあいつは速攻退学……だからバカな真似はしないよ……」
「ふぇ………」
 誠は明石の人脈の広さと情報網に感嘆の感情を持つと同時に、自分が世の中のことを表も裏も含めて何一つ知らない子供なんだと痛感させられました。

 

 

「取り込み中すまんが……」
「ワッ…!」
 不意に荒巻がこちらに来て声をかけてきたので二人、特に誠は驚いた様子で彼を見上げました。


 

「バカ野郎……!診察終わったなら終わったって言いやがれ……!」
 明石が声を荒げます。
 それは誠が見たことのない荒っぽい明石でした。


 

「………その結果だがな………」
「もったいぶらずに早く言え…!」
 誠よりも明石の方が静架の容態が気になって仕方ないように見えます。


 

「……結論から言うと彼女が何で意識不明なのかさっぱりわからない……目立った外傷は見受けられないし、かといって内出血の類も全く当たらない……」
「それじゃ……」
 誠は静架が外傷を負っていないことにひとまず安堵しましたが、荒巻の言葉に覇気がないことから難しい状態なのだと悟り、余計暗い気持ちになりました。


 

「うん……どこか大きい病院へ入院してMRIでも受けた方が良いだろうな…俺ではこれ以上もう何もできない……」
「何だよこのヤブ医者めっ……!」
「明石、よせよ……!荒巻さん、今日は本当にありがとうございました……静架は今日明日にでも札幌の親元に返して入院させるよう言います。いずれ改めて意学部の方へお礼しに行きますので今日のところは……」
「了解……」
 荒巻は表情一つ変えずに道具をテキパキと片付け帰り支度を整えました。


 

「誠、今日は講義……」
「うん、悪いけど休むわ……先生達に病欠の申請を出して欲しいんだけど……」
「お安い御用だ……!お前は責任を持って静架ちゃんを送るんだぞ……!」
「あぁ、ありがとう……」
「じゃあな…!」
 明石と荒巻が帰ろうとドアへ向かったその時、荒巻がポツリと言い残していきました。


 

「あぁ……その子……心臓が右にあるぞ……」

 

 

×××××××

 

 

「………」
 誠はベッドに横たわっている静架の顔を彼女の左手を両手でしっかりと握り締めながらじっと何十分も見つめていました。

 


「静架ちゃん………僕は君を何としても助けなくちゃいけない………」
 誠は巨大ムカデとの戦闘を思い出していました。
 あの時、まだ未熟な闘士だったので自覚はなかったのですが、彼の知らぬところで静架はしっかりと誠を援護していたのです。
 その彼女の思いを考えると誠は胸が締め付けられます。
 そして、同時に彼女の思いに報いなくてはと思います。


 

「ギュッ……!」
 いつの間にか誠は握った手に必要以上の力を込めてしまいました。
「あっ……ゴメン……」
 誠は思わず謝罪を口にしますが、
「スゥーッ………」
 静架の口からは寝息が漏れるのみです。


 

「静架ちゃん………」
 状況は深刻であるといえます。
 しかし、誠の瞳には不安の色こそあれ、狼狽は全くありませんでした。
 彼はある意志を心に秘めていたからです。

 

 

(次の召喚で全てにケリをつけてやる…!いや、つけないと僕らは……全員やられてしまう……!)

 “死”という概念がダイレクトに誠の心に飛び込んできます。
 けれども、誠の意志は揺るぎないものでした。

 

 

「サッ……!」
「カタカタカタカタ……」
 誠は静架から手を離すと机に向かい、パソコンを立ち上げてインターネットを開いたかと思えば、次はワードを開きひたすら何かを打ち込み始めました。
 何かを懸命に調べているのかといえば決してそうではありません。
 一心不乱に何かをせずにはいられない状態だったのです。


 

(僕は……僕の考えは……恐らく当たっている……それは“論理”や“理屈”では絶対に“No!”と言われるもの……それでも僕の直感がそれらを否定して一つの結論を導き出している……証拠なんて呼べるものは何一つないのに……整合性だって全くないのに……けど…けど…どうしても消すことができない“何か”が僕を突き動かすんだ…!)


 

「カタッ……!」
 誠は壊れんばかりに叩いていたキーボードを打つ手を止めました。
「マジで次……ケリをつけよう……!」
「カタカタカタカタ……」
 それだけを呟くと再びタイピングへと没頭し出しました。
 

 

 そうして数時間の時が過ぎ去っていきました。

 

 

 

×××××××

 

 

「タッタッタッタッタッ……!」
 ここは大阪のとある企業が所有しているグラウンド。
 そのトラックを軽やかに走る人影があります。


 

 利樹です。
 彼は企業が抱えるスプリンターなのです。
 一応総務部に在籍こそしていますがデスクワークはほとんどせず、このグラウンド、そして各大会の場こそが彼の“職場”であるのです。


 

「タッタッタッ……!」
 今夕刻に差しかかろうとしている時刻、太陽が西へと傾いていくのを背に利樹は整理運動として軽めのジョギングを行っていました。
「大分調子が上がってきたんと違う…?こないだまでは大会出場さえ危うかったっちゅうのによぉ……」
 サングラスをかけた監督が目の前を通り過ぎて行った利樹に声がけします。


 

 すると、
「ピタッ……タッタッタッ……!」
 利樹は一度止まり、そのまま後ろ向きで監督のもとへと走ってきました。
「ちょ……おい!バカな真似したらアカンって……!」
「ピタッ……!」
 監督の慌てぶりを察知した利樹は振り向いてニコリと笑みを見せました。


 

「俺ぁ天才やからな……!大会見とけ……!」
 ドゥリムランドゥでは絶対に話さない関西弁で大見得を切ります。


 

「ほな、明日な……!」
「ダッダッダッダッ……!」
 呆気に取られる監督をよそに、利樹は引き上げて行きました。

 

 

「ジャァァァァァーッ……!」
 練習を終えた利樹はシャワーを浴びています。
 流れ出て皮膚を濡らしていた汗をやや熱めのお湯で洗い流していきます。
 この時間こそある意味利樹にとって至極のひとときなのです。


 

「フゥーーッ……!」
 シャワーの音に負けないくらい、気持ち良さそうに溜めていた息を吐き切る利樹。
 まさにカモシカのような脚。
 程よく鍛えられた上腕部と胸部。
 割れた腹筋。
 運動選手のみが持ち得るその身体を湯気で上気させながら、シャワーを浴び続けています。


 

「シャーーーーーッ……!」
 利樹は水の勢いを少し緩めると、身体を洗うのを止め、滝に打たれるかのようにひたすらお湯を浴び続けました。


 

(舞は俺のものだ……!)
 もはや誠に対して悪感情を抱いているわけではありませんし、仲間として彼を認めている利樹でしたが、舞のことになると別問題のようです。


 

「舞……」
 おびただしい湯粒に打たれながら利樹は何度も舞の名前を呟き続けました。

 

 

×××××××

 

 

「お疲れッス……!」
「おう、気をつけて帰れよ……!」
 最後の若職人が元気に挨拶をして現場事務所を後にしました。

 


「さてと……」
 それを笑顔で見送った徹郎は今日の進捗状況を報告するためにパソコンに向かいました。


 

 ここは福岡のとある新築マンションの建築現場。
 徹郎は現場の総監督としての業務を行っています。


 

「カタカタ…カタカタ……」
 昔気質の職人上がりで監督になった徹郎にとってパソコンをはじめとする様々な新システムの波は厄介なことこの上ないものでしたが、元来負けず嫌いの性格と好奇心の強さが幸いして最初こそ戸惑いましたが、今ではそれらのシステムを完全に自分のツールとして使いこなしていました。


 

「カタカタ……」
 報告書を作成しながら徹郎はドゥリムのことを考えていました。
 作業中は決して考えないようにしているドゥリムのことはこうした事務仕事を開始すると途端に頭を擡げてくるのです。


 

(どうして俺たちは無事に……怪我こそしたが生きて戻ってこれたのだろう……?宇宙人にとってあの瞬間こそ俺たちを倒す最高のタイミングだったはずなのに……)
 誠が抱いたのと同じ疑問を徹郎も持ち続けていました。


 

「カタ……カタッ……」
 その疑問にタイピングの速度も落ちます。


 

(次が正念場かもな……)
 それは数々の現場を経験し、時には危険な目にも遭ってきた職人の直感でした。


 

 彼がパソコンを使う傍らには妻、息子、娘の家族四人で写っている写真が飾ってありました。

 

 

×××××××

 

 

 ここは東京。
 とあるマンションの一室。


 

「ハァ………」
 溜め息をついているのは舞。
 彼女はバスローブ姿でワインを飲みながら、退屈そうにテレビのバラエティ番組を観ていました。

 


「ガヤガヤガヤガヤ……!」
 スピーカーからはお笑い芸人やタレントの騒々しい声が流れています。
 舞はそれに全くと言って良いほど耳を傾けていないので単なる喧騒にしか思えない状態でした。


 

「コクッコクッ……」
 “飲む”というよりは“流し込む”勢いでワインを空にする舞。


 

「ピンポーンッ……!」
 すると突然インターフォンが鳴りました。
「ケッ……!」
 面倒くさそうに舌打ちをした舞が受話器を取ります。
「………」
 しかし、彼女は無言でした。


 

「ねぇ、舞っ……!そろそろ仕事復帰してくれてもいいんじゃないかな……?」
 30代前半と思しきスーツ姿の男が画面に映りました。
 外に立っていたのはマネージャーだったのです。


 

 舞はドゥリムから戻って来た次の日、つまり今この日仕事を全てキャンセルして自室に閉じ篭っていました。
 マネージャーは原因不明のサボタージュを起こした舞と話をするべく部屋にやって来ました。


 

「………」
「ガチャッ…!」
 舞は無言のまま受話器を置いてしまいました。


 

「ドンドンドンドンドンッ……!!」
 こうなるとマネージャーもさすがに態度を変えるしかありません。
 彼は乱暴にドアを叩きながら、
「舞っ…!出てきなさい……!話し合おう……!!」
必死の口調で叫んでいました。


 

「ガタッ……!」
 舞はぞんざいに立ち上がってドアへと向かいました。


 

「ギギィッ……!」
 そしてマネージャー以上に乱暴にドアを開けると、
「シュッ……!」
「バゴォッ……!」
「グエッ……!」
 掌打の要領で掌を振りました。
 それはマネージャーの顎にクリーンヒットし、哀れ彼はその場に失神してしまいました。


 

「次は殺すよっ……」
「バダンッ……!」
 聞こえているはずもないマネージャーに向かって乱暴に言い捨てた舞は壊れんばかりの勢いでドアを閉めました。

 

 

×××××××

 

 

 再び誠の家。


「カチャッ……」
 誠は自炊して夕食を済ませました。
 とはいえご飯を炊いただけで後は出来合いのおかずを買ってきただけに過ぎないのですが、普段はご飯を炊くことすらせずに外食かコンビニ弁当で済ませてしまう誠にとってはこれでも立派な“自炊”だったのです。


 

 彼は普段は気にすることすらしない白いご飯の味を何度も何度も噛み締めていました。
 噛み締めるうちにご飯は甘さを増してきます。
 この何気ない味を誠は噛み締めています。
 まるでこれが最後の食事であるかのように……

 

 

「カタッ……」
 食事を終えて入浴を終えた誠は襟の付いた白いシャツにブルージーンズという服装に着替えて、静架の横に座りました。


 

「………」
 静架は昏々と眠っています。


 

「静架ちゃん……君を助ける……そしてドゥリムも……僕たちも……」
 もの言わぬ静架にそう語りかけた誠は座ったまま眠りにつきました。


 

 彼はこれが最後のドゥリム召喚と心に決めて眠りにつきました。

 

 

×××××××

 

 

 ここはドゥリムランドゥ。
 草原の大木の下。

 


 二つの人影がありました。
 影の主は利樹と舞です。

 


 二人は他のメンバーよりも先にドゥリムへ召喚されたようです。
 木陰に座っている二人はとても親密な様子で何事かを話していました。

 


「マジかよっ…!ウソじゃないよなぁ……?」
 喜びの歓声を上げたのは利樹です。
 座っているにも拘らず彼は身体を弾ませています。

 


「ええ……この闘いが終わったら……あっちでも逢って二人で暮らしましょう……」
 憂いを帯びた瞳で舞が利樹を見つめます。
 その視線が更に利樹を興奮させました。


 

「ホントにホントだな……!?」
「本当よ………」
「なら証拠を見せろよ……!」
 利樹の目がギラリと輝きました。


 

「証拠……!?」
 舞がクリクリした瞳を丸くします。
「ここで抱かせろ……!」
 獣の、雄の本能を剥き出しにした利樹が舞に迫ります。


 

「ダメよ……ここじゃダメ……闘いが終わってから……あっちで……ね……?」
「ガバッ…!」
 やんわりと拒否した舞の身体を利樹は強引に押し倒しました。


 

「いや……寺岡さん……もう……」
 利樹は慣れた手つきで舞の身体を激しく愛撫しています。
「一度でイイんだ……ここで……なっ……!」
 利樹の興奮はもはや抑え切れないところまで来ているようです。


 

「わかっ……たわ……」
 遂に舞も観念して身体の力を抜き、利樹に身を委ねました。
「舞…舞……!」
 うわ言のように彼は舞の名を呼び続けました。


 
「危ないっ……!」
 すると突然聞き慣れた声が二人の耳元に飛び込んできました。

 


「………!?」
「ハッ……!実沢さん……」
 舞の台詞の通り、二人の背後5mという所に誠が立っていました。
 その表情は誰かを心配しているかのようなものでした。


 

「誠っ……!」 
 逢瀬を邪魔された利樹は仲間であるはずの誠に厳しい視線を投げかけています。


 

「お前、見てたのか……?」
「いや、今ここに着いたところだ……」
「せっかくのお楽しみに割って入るんじゃねぇよ……!お前には出歯亀の趣味でもあんのかっ……!?」
 利樹の怒りは頂点に達しているようで、以前のように口汚く誠を罵ります。


 

「俺は君を助けに来たんだよ……」
 誠の口調はあくまで冷静です。


 

「あぁ…!?舞をか……?」
「違うっ……利樹、君をだ……」
「はぁっ……!?」


 

「その舞さんは偽者だからだっ……!」 
 誠の口から衝撃的な言葉が出てきました。


 

「………」
 その言葉を耳にしても舞は先程とは豹変して無言を貫いています。


 

「ヘッ……!?何言ってんだお前……!?」
 代わりに利樹が怒りを露にします。


 

「……明確な証拠はないけど……その舞さんは……宇宙人が化けている……」
「だから何を世迷言ぬかしてやがるんだよぉっ……!」


 

「ダダッダダッ……!」
 利樹が遂にキレて誠の眼前に立ちました。


 

「なぁ、ホントのこと言えよ…!誠は俺と舞がバッチリの関係になったのを見て、悔しくてだまくらかそうとしてるんだろ……?なぁっ……!!」
「利樹……君も気づいているんじゃないか……?彼女が偽者だって……」


 

「ガアァァァァァッ……!」
「シュウッ……!」
「ボガッ……!!」
「クッ……」
 逆上した利樹は右フックを打ちました。
 本来なら避けられるはずなのに誠はあえてそれを受けました。
 利樹のパワーのあるパンチに倒れこそしませんでしたが、悶絶する誠です。


 

「証拠見せろよおっ……!」
 利樹の絶叫が草原にこだましました。

 

「さっきも言ったけど明確な証拠はない……けど、僕が彼女を疑い始めたのは僕たちの呼び方だ……」
「呼び方……」
 利樹もハッとして身を固くします。
 思い当たる節がありそうです。


 

「“寺岡君”、“実沢君”って苗字で呼んでいる……あれだけこの世界で呼び方にこだわった舞さんが……そして……」
「そして……!?」


 

「僕たちは前の召喚の最後に敵に背後から襲われた。あの瞬間にどうして奴らはとどめを刺さなかったのだろう……?」
「………」


 

「宇宙人がどんな人格を持っているかなど地球人には到底理解できないだろうけど、奴らは僕たちのことを多少なりとも理解、というか調査しているようだ……奴らは僕たちを精神的に嬲って殺すつもりだったんだ……」
「ど……どういうことだ……!?」


 

「このドゥリムで一番僕たちが精神的にダメージを受けるのはメンバーに裏切られることだから……」
「ま……俺にはさっぱり何が何だか……」
「利樹が悪いわけでも何でもないんだよ……これも僕の推測に過ぎないが舞さんはもう既に宇宙人に殺されていると思う……」
「………!?」
 更に衝撃的な誠の言葉でした。
 さすがの利樹も完全に言葉を失ってしまいました。


 

「あの洞窟の見張りをしている時にね……僕がそう思った理由も極めて整合性のない曖昧な憶測なんだけども……洞窟の中で静架ちゃんが意識不明に陥っていて未だに回復していないのにどうして舞さんは気絶だけで済んだんだろうって思ったのが僕の疑惑の最初…」
「あ………」
「一つ疑問が湧き上がってくるとさっきのようなそれまでの舞さんと違う部分が浮き彫りになってくる……それらも小さいものだけど積もると大きい疑惑になっていった……」


 

「フッ……!」
「シュウゥゥンッ……!」
 そう語りながら誠は瞑想に入り、専用剣を取り出しました。


 

「ツカツカツカ……」
 そして剣を構えてゆっくりと舞の方へ向かいます。
「お、おいっ……誠、どうするんだ……!?」
「彼女が本物かどうか確かめる……」
「……ってもしお前の推理が違っていたらどうするんだよぉっ……!?タダでは済まさないぞ……!」
「その時はどんなペナルティも受けるよ……僕は覚悟を決めて今日召喚された……!」
「覚悟……!?」
「今日でケリをつけるってことだっ……!」

「ジャキッ……!」
 自分の間合いに入った誠が剣に力を込めます。


 

「ボウワッ……!」
 剣は青白く燃え盛り始めました。
「ダアァァァァッ……!」
 誠は上段から思い切り剣を振り下ろしました。


 

「スゥッ……」
 無言のまま舞は攻撃をかわします。
「かかったな……!」
「ビュウゥゥンッ……!」
 誠は槍投げの要領で剣を投げました。


 

「ブサアッ……!」
 剣は舞が動いた方向に刺さります。
「………!」
「ズダンッ……!」
 スピードを落とすことができなかった舞はそれに足を引っ掛け倒れてしまいました。


 

「グゥ………」
「舞……嘘だ……!」
 倒れた舞が起き上がった際に口から漏れてきたのは獣のような唸り声。
 更に口元からは黄色い液体が雫となってポタポタ落ちています。
 その様子を見た利樹は明らかに取り乱しています。


 

「正体を見せたな、化け物……!」
 誠は攻撃の手を緩めません。
「ムンッ……」
 両手を組み合わせて瞑想に入る誠。
「フワッ……シューンッ……」
 すると突き刺さっていた剣が浮き上がり、
「ガシッ……!」
飛行して誠の手元へと戻ってきました。
「あいつ…いつの間にあんな能力……を……!?」
 これには利樹も驚くばかりです。


 

「ガギャアァァァァッ……!」
「ドドッ、ドドッ……!」
 舞の姿をした宇宙人が突進してきます。
「ハアッ………!」
 誠が右手一本で円を描くように剣を振り下ろしました。


 

「化け物め、舞さんの顔になりすますのはやめろっ……!」
 誠の叫びが響き渡ります。


 

「ピッシイィィィィッ……!」
 凄まじいスピードで振られた剣は怪物の眉間の辺りを捉え、
「ビジュウゥゥゥゥゥッ……!」
 そこを起点として怪物を真っ二つに切断しました。
「グギャワオウゥゥゥゥゥゥッ……!」
 断末魔と共に美しい舞の顔が割れ、二個の骸になっていきます。


 

「グゥッ……!」
 利樹はその惨状を目の当たりにすることができずに目を背けました。
 その表情は涙こそ流していませんが泣いていました。


 

「……………」
 宇宙人を倒した誠は対照的に表情こそ冷静でしたが、滝のような涙を流していました。

 

 

×××××××

 

 

「………」
 利樹は木陰に座ったまま無言でずっと佇んでいます。

 


「スッ……」
 目の前に手が差し出されました。
 手の主は誠です。

 


「誠……」
「君にはすまないことをした……もう少し、せめてあと5分早かったらこんなに悲しまずに済んだろうに……」
「ケッ……!」
 利樹はわざとキザっぽく誠の手を借りて立ち上がりました。

 


「優し過ぎんだよ、お前はよ……!」
 ようやく利樹に笑顔が戻ってきました。
「お前だって俺以上に舞のことを……」
「サッ……!」
 その言葉を誠は遮りました。

 


「考えると悲しくなるだけだよ……今は……」
「そうだな……」
「ケリをつけてからゆっくり話そう…」
「俺もそう思ってたところだ」
「行こう…!」
「おうよ…!」


 

×××××××

 

 

 ドゥリムの町の入り口。
「………」
 そこに一人無言で立っていたのは徹郎でした。

 


「ザッザッザッ……」
「ン……!」
 足音に振り向くとそこには誠と利樹が立っていました。


 

「来たか……」
「徹郎さん……」
 誠はこれまでのいきさつを徹郎に話しました。

「そうか……舞さんがな……これから花開く女性だったのに……」
 徹郎はそう言うと悲しげに目を閉じました。


 

「静架ちゃんはどうした……?」
「現実世界の僕の部屋にいます。意識不明のままです……」
「うむ……」


 

「徹郎さん、利樹も聞いてほしいんだけど…」
「ン……?」
「何だ……?」
「僕と静架ちゃんは現実でも一緒にいる…彼女の意識があろうがなかろうがそんなことは関係なく一緒にいるんだ……」
「ふむ……」


 

「これっておかしくないですか…?ドゥリムで会った人間は現実では会うことのない、会ってはいけないというのが世界のルールでしたよね…?」
「確かにな……」
「けれど実際に僕と静架ちゃんは一緒にいて、そのことで何ら罰を受けることもない…これが舞さんのことも含めて僕が再びこの世界に疑問を持つきっかけになったんです…」


 

「疑問だって…!?」
「そう……とはいっても前に僕が抱いた“脳内世界”って意味じゃない……“ドゥリムランドゥ”は確かに存在する……けど、それは“ここじゃない”って疑問さ……」
「えっ……!?」
「誠……!?」
 誠の仮説に驚愕の声を上げる二人。


 

「この世界そのものが宇宙人が作り出した“偽のドゥリム”じゃないかって僕は思っている……!」
「………!?」
「………!?」
 誠が語り出した大胆な結論に二人も声を失います。


 

「そう思ったの理由は……前に逆戻りするけど、ここで決闘させられたことだ…いくら地球に迫る有事とはいえ、別世界の主がそんな闘う者の人格を無視するようなことをするだろうかってずっと考えていた……」
 無言で誠の仮説に聞き入る徹郎と利樹。


 

「そしてそれよりも大きな理由…それはあいつ、“声”がチームが動き出してから全く姿を見せなくなったことだ…!」
「……!!」
「……!!」


 

「あいつは言った。僕たちと同じように50人が召喚されて同じようにチームになって10チームで宇宙人と闘うと……!けど、その欠片すらも僕たちは見受けることができないで現実とここを行ったり来たりしている……!」
 誠の瞳に青白い炎が宿りました。


 

「あいつは僕たちを騙したんだ……!」
「けど、それならこんなまどろっこしいことせずに一思いに俺たちを倒せば済む話なのでは……?」
 徹郎が疑問をぶつけます。


 

「それは正直僕にもわかりません……けれども、舞さんの偽者のことからわかるように奴らは僕たちの精神を弄んで、嬲り殺しにしたがっているように感じるんです…!」
「ケッ……!」
 思い出したくない惨劇がフラッシュバックした利樹が唾棄しました。

 

 

「スクッ……!」
 車座になって座っていた誠が突然立ち上がり、天空をキッと睨みつけます。
「おいっ…!隠れてないで出て来いよ……!僕たちはお前と決着をつけるため、そのために来たんだ…!出て来いっ……!」


 

「サアァーッ……」
 誠がそう叫んでも返ってくるのは風の音だけです。


 

 しかし突然、
「サアァーッ、アァァァァァァァッ……!」
風の音が唸り声に変わりました。


 

 その声は確かに“謎の声”のものでした。


 

「やっと来たか……」
『アァァァァァァァッ……!実沢誠よ、よく気付いたなぁぁぁぁぁぁぁっ……!』
 久しぶりに聞くその声は邪気に満ち満ちていました。

 


「ちきしょう……よくも俺らを騙して……舞を殺して……!」
「ギリギリギリギリ……」
 怒りで歯軋りをしながら呟く利樹。
 怒りのあまり噛んだ唇が切れて真っ赤な血の雫が流れ落ちています。


 

「ジュウンッ……!」
 瞑想した利樹が真紅の斧を手にしました。
「ウオリャァァァァァッ……!!」
 全ての怒りをぶつけるべく斧を声のする方へ投げつけました。

 


「スゥン……」
 しかし、斧は空しく空を切るばかりでした。
「ちきしょう…出てきやがれ……!!出てきて闘えっ……!」
 ブーメランのように戻ってきた斧を闇雲に振り回して絶叫する利樹。

 

 

「もう出てきているのかも知れんな……」
 黒日本刀を構えた徹郎の声です。
「エッ……!?」
 今度は誠が驚いています。


 

「この世界全体が宇宙人の一部なんじゃないのか……?」
 それは当たっているとすればあまりにも恐ろしい仮説でした。


 

「そんな……!?」
『ギャハハハハハッ……!さすが一番人生経験積んだだけのことはあるなぁ……!』
 “声”が下劣な口調で応えます。


 

『その通りだよ…!ご名答だよ…!ここは偽のドゥリムランドゥ…!そして俺の一部、すなわち貴様らは俺の体内にいるんだよぉっ……!』


 

「やはりな……」
「何てこった……」
「…………」
 失意の様子の三人。
 そこに“声”、いや宇宙人が追い討ちをかけてきます。


 

『体内にいるからよぉ…お前らは俺の意のまま……!そしてこの世界も俺の意のままってこったぁ……!ギャハハハハハハハッ……!』


 

「ズザッ……」
「ザザザッ……」
「ザッザッザッ……」
 宇宙人の笑い声が合図になったのか、町にいた住民たちがゾンビのようにゆっくりとした動きで誠たち目指して進んできます。


 

「ドドドドドドドドッ……!」
 彼方からは地鳴りのような音が聞こえてきました。
 それがウイ牛や巨大ムカデをはじめとする怪物であることは明白でした。


 

「グッ……!」
 各々自分の武器を握り締め、構える三人。
 全員、まだ諦めていない様子です。

 

 

「どうするよ…?」
「どうするって闘うしかないよ……!」
「そうだな、どうせ死ぬのなら黙って殺されるんじゃなく、最後まで抵抗して果てたいものだ……」
「ケッ……カッコイイこと言っちゃって……俺だって同じだからな……」


 

「よし、それなら三方に散るぞっ…!」
「はい…!」
「おうよ…!」


 

「みんな、またどこかで会おう…!」
「天国で…!」
「俺は地獄行きなんでね…!」
「ダダダダッ……!」
 誠は真正面、徹郎は右、利樹は左へと走り出しました。
 三人が向かう方向には住民に化けた怪物が歩いています。

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
「シュウンッ……!」
「ビジュッ…!」
「………」
 誠は袈裟切りを封印してひたすら水平切りを繰り出して、ゾンビと化した住民の首を刎ねていきます。

 

 

「…っせぇぇぇぇぇぇぇい……!」
「ブウンッ……!」
「ブヂャアッ……!」
「ギャギャァァァァァァッ……!」
 利樹はとにかく力任せで斧を振りかざし、まるで肉を削らんばかりの勢いでゾンビを仕留めていきます。

 

 

「フンッ……!」
「バサッ……!」
「シッパァ……!」
「………」
 徹郎も誠同様、体力を消耗する縦の動きは避け、水平切りで的確に首を落としています。

 

 

『ヒャヒャヒャッ……!頑張るねぇ、人間ふぜいが……!しかし、いつまでもつかな…?ギャハハハハハッ……!』
 宇宙人の下卑た笑いが偽の空間にこだまします。

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
「シュウンッ……!」
「ビジュッ…!」


 

「………」

「…っせぇぇぇぇぇぇぇい……!」
「ブウンッ……!」


 

「ブヂャアッ……!」
「ギャギャァァァァァァッ……!」

「フンッ……!」


 

「バサッ……!」
「シッパァ……!」
「………」

 三人がどんなにゾンビを倒そうとも次から次へと敵は涌いて出てくるのです。

 

 

「ハァハァハァハァ……」
「クッ…ちきしょう……!」
「フゥフゥフゥ……」
 怪物を各々10匹も倒したところで3人とも息が荒くなり出しました。


 

 そして終わることのない戦闘地獄に精神面での疲労も極限まで達していました。

 

 

「ハァハァハァハァ……まだっ……まだまだぁっ……!」
「シュウンッ……!」
 誠が気合を入れ直し、ゾンビの首を切り裂いていきます。

 


「よ、よし……!」
「ムンッ……!」
 その行動に触発された利樹と徹郎も続いて気合を入れ直します。

 

 

『ヒャハハハハ…!すげぇすげぇ……!それじゃ、これならどうだっ……!!』
 宇宙人がそう言うと、
「ゴガァァァァァァァァンッ……!」
 突如アイボリー色の空に雷鳴が轟きました。


 

「ピカァァァァッ……!!」
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥン…!」
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥン…!」
「シュゥゥゥゥゥゥゥゥン…!」


 

 雷鳴は三つの雷となって、
「ガチャアンッ!」
「ガチャアンッ!」
「ガチャアンッ!」
 3人の武器めがけ落ちて行き、武器を焼き払ってしまいました。

 

 

「これは……!?」
「ゲッ……!?」
「しまった……!」
 


『そうよ…!その武器も元は俺の創りしもの……!今まではハンデだと思って持たせていたがそれにももう飽きたわ……!』

 

 

「バダンッ……」
 唯一の頼みの綱であった武器を失った3人は力なくその場にへたり込んでしまいました。
 皆一様に放心状態です。


 

「ブエェェェェェェェ……」
 その隙をついて大量のゾンビが3人を取り囲みました。

 

 

『ギャハハハハハハハ…!お遊びは終わり…!ままごとはジ・エンド…!!そして、お前らの命もここで尽きるのだっ……!』

 

 

「ドドドドッ……」
 ウイ牛や巨大ムカデといった怪物もあと数mの所までやってきました。

 もはや“絶体絶命”としか言い様がありませんでした。

 

 

「あ………」
 誠は全てを失い、黄色い血塗れになってゾンビに蹂躙され始めていました。
 利樹と徹郎の方を見ましたが、どちらも大量のゾンビに埋もれて全く見えません。


 

 最期にもう一度仲間の顔を見たいなと切に思います。
 脳裏には舞と静架の笑顔も浮かんできました。

 

 

(精一杯僕は闘った……悔いはないよ……)
 頬を涙が伝います。


 

(でも……もっと生きたかったな……このテンションのままでさ……)
 観念したのか誠は動くのを止め、ゾンビにされるがままになっています。


 

(おかあ……さ……ん……)
 遠く離れた世界にいる母のことを断末魔が訪れようとしているその瞬間に思いました。


 

『ギギャグワバァァァァァァァァァァァァァッ……!!」
 すると突然、宇宙人の汚い絶叫が聞こえてきました。

 


「ハッ……!?」
 あまりの声の大きさに全てを投げ出した誠も目を開けました。


 

「な……何……!?」
 声のする方を見上げると、想像を絶する光景がそこにはあったのです。


 

「ブッジュウゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!」
 巨大な手が貫き手の要領で宇宙人の身体を貫いていました。


 

「ボドボドボドボドボドボド……」
 貫かれた傷口からは滝のような黄色い出血が迸っています。


 

「サアァァァァァァァッ……!」
 巨大な手の隙間から光が射し込みます。


 

「ウッガアァァァァァァァッ……!」
 その光を浴びたゾンビたちがたちどころに溶けていくではありませんか。


 

「サラァァァァァァァァ……!」
 更には偽りのドゥリムの町もぐんぐん溶けて気化していきます。

 

 

「……………」
 誠は呆気に取られて、恐怖すら感じながらその光景を眺めていました。
 徹郎と利樹も同様でした。

 

 

『この地球に迫りし侵略者どもよっ……!此処は貴様らの好き勝手にはさせんっ……!』
 威厳のある女性の声でした。


 

(この声……!?)
 誠にとってとても懐かしい響きを持った声です。


 

『誠……誠……!』
「は、はい……!」
 女性の呼びかけに誠は立ち上がりました。


 

『この者へのとどめは貴方がなさい……!徹郎と利樹も……』
「スクッ……!」
 3人は呼吸を合わせたかのように同時に立ち上がりました。

 

 

『これを受け取って……』
「フウゥゥンッ……!」 
 そう言うと女性は青い剣、真紅の斧、黒日本刀を出現させました。
 ゆっくりと主の下へと降りていく武器。


 

「ガシィッ…!」
 3人ともしっかりと武器を受け取りました。


 

『さぁっ……!!』

 

 

「ビュンッ…!!」
 3人は同時にジャンプします。
 宇宙人の傷口めがけて…

 

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ……!」
「シュウンッ……!」

「…っせぇぇぇぇぇぇぇい……!」


 

「ブウンッ……!」

「フンッ……!」
「バサッ……!」

 

 

「ブッジャアァァァァァァァァァァァァッ……!」
 誠の剣、利樹の斧、徹郎の刀が巨大宇宙人の身体を切り裂いていきます。


 

『ウギャッ、ウギャグワガアァァァァァァァァァァッ……!!』
 凄まじい断末魔の絶叫を上げる巨大宇宙人。

 

 

「シャッパアァァァァァァァァァァァァッ……!!」
 目映いばかりの閃光が辺り一面を包み込みます。


 

「あっ……!」
 誠は薄れ行く意識の中で驚愕の声を上げていました。


 

「君……は……!?」
 誠たちを助けたのは宇宙人に負けないくらい巨大な女性でした。

 

 

 解脱したような穏やかな微笑を湛えているその顔は……
 誠の部屋で意識を失っている少女……
 

 

 宮町静架だったのです……!


 

 

~エピローグ~

 

 

「ここは何処なんだろう……?」
「どこでもイイじゃねぇか…!こうして生きて戻ってこれたんだからよ…!」
「そうだ……現実社会にいる限り俺たちは何処へだって行けるし、家にも帰れるんだ……」

 

 

「そうですね……ところで……二人ともこれからどうするんですか……?」
「どうするって……町へ降りてここが何処か確かめて家に帰るさ……」
「俺もだ…明日仕事だからな……」


 

「うわっ、徹郎さんその怪我で仕事行こうっての……?」
「ホントですよ…一日くらい休んだ方が……」
「俺がいないと現場がまとまらないんだよ……」
「いない方がまとまるんじゃない…?ヒハハハ……!」
「この野郎…!」
「わっ、ゴメン…冗談、冗談だってば……」


 

「僕はもう少し此処にいます……何だか気に入っちゃって……」
「学生は気楽だな…」
「ええ、利樹さんも戻ってみたらどう……?」
「てめぇっ……!」
「ハハハハッ、冗談ですよ……」

 


「……ったく……あ、そういえば……」
「えっ……?」
「誠の家にいる静架ちゃんはどうなったんだろう……?」
「俺も気になっていた」
「それなら……あの娘はきっと助かっていると思いますよ……!」
「何だ…?また根拠がないのに自信がある言葉を……!」
「いや、本当にそう思うんです……どちらにしても僕は彼女を札幌へ送るまで看病します」
「それがいいな……」


 

「そうだな……さて、そろそろ俺は行くぞ…陽も昇ってきたようだし……」
「俺も行くわ…黄色い血がベタベタして気持ち悪いからよ…」


 

「徹郎さん、利樹さん、お元気で……」
「誠君も……」
「勉強頑張れよ、誠……」
「はい……」


 

「ありがとう…!」
「ありがとな……」
「僕の方こそありがとうございました…!」


 

「今度会ったら酒でも飲もうぜ…!」
「一度博多まで遊びに来るといい…」
「はいっ…!」


 

「じゃあな…!」
「また会おう…!」
「それでは……!」

 

 

 昇ってきたばかりの朝日を背にして、誠と利樹と徹郎の三人は別れを告げ、それぞれの道へと去って行きました。

 

 

「フゥ………!」
 息を吐いてその場に腰を下ろす誠。


 

 ここは日本のどこかであることは間違いないのですが、誠たちの知らない山の頂です。
 死闘の末、宇宙人を倒した誠たちは現実世界へと戻ってきたのです。

 

 

「………」
 誠は今ドゥリムランドゥでの出来事を思い出しています。
 結局あの場はドゥリムではなく、侵略者である巨大宇宙人の体内でした。
 巨大宇宙人が何故あのような邪悪な侵略法を用い、何故誠たちを召喚したのか、他に召喚された人はいたのか、謎は謎として残りました。

 

 

 けれども誠はその謎を解き明かそうとは考えませんでした。
 偽とはいえドゥリムランドゥが存在し、仲間と共に生き、共に闘い、成長した現実があれば十分だと思ったからです。


 

 白鳥舞の死も今は悲しい出来事ではありましたが、誠の中で彼女のことはやがて美しい思い出としていつまでも残ることでしょう。

 

 

 そして…
「もう出てきていいよ……!」
 誠は誰かに話しかけました。


 

「パタパタパタ……!」
 誠の血ですっかり黄色くなったシャツの胸ポケットから何かが飛び出してきました。


 

「誠お兄ちゃん……!」
 身の丈15cmあるかどうかの羽の生えた人間でした。
 服は着ていません。


 

「裸で寒くないの……?」
「ちょっとね……」
 その顔は宮町静架でした。


 

「家に着いたら服を作ってあげるから…それまではこれで我慢して…」
「ビリビリ…」
 誠はそう言うと自分のシャツの左袖を器用に引きちぎり、形を整えて静架に巻いてあげました。


 

「ありがとう…!やっぱり誠お兄ちゃんは優しいな…!」
「それにしても君が妖精だったなんて…」


 

「私は現実世界の人間が偽ドゥリムに召喚されたのを助けるために本当のドゥリムから送り込まれたのよ……だから現実世界でもずっとお兄ちゃんたちを見つめていた……」
「そうだったのか……ところでドゥリムランドゥに帰らなくて大丈夫なの…?」


 

「うん……ニンフは私だけじゃないから……それにドゥリムは宇宙人の侵入を防ぐために入り口が閉ざされちゃったんだ……だから、当分帰れないから誠お兄ちゃんの所にいてもいいかなぁ…?」
「いいさ…!」
「本当…?ありがとう…!」
 そう言うと妖精、静架は誠の頬にキスをしてそのまま抱きつきました。


 

「さぁ、僕たちも帰ろう…!」
「うんっ……!」
 


 真っ赤に燃える朝日が二人を優しく包んでいました……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥリム闘話」

 

 

~完~

 

 

 

 

*この物語はフィクションです。

 


 

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